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小山田徹『対話をし続ける事 共有空間の獲得』(3/3)

  • 小山田 徹美術家・京都市立芸術大学 准教授
小山田徹『対話をし続けること 共有空間の獲得』(3/3)

小山田さんは活動テーマは「わかりあえない他者同士がいかにしてコミュニケーションしていくか」。1992年にダムタイプの作品「S/N」にて、仲間の美術家 古橋悌二氏のHIV感染の事実をカミングアウト。当時、日本社会の中で、「同性愛」や「エイズ」に関する議論がほぼタブーであった時代に、先進的に、医療分野からではなく、アートという分野から、この問題に関する啓発普及活動を進めて行きます。そして、舞台とともに、京都にて数々のコミュニティスペースを立ち上げ、そこに、様々な福祉に関わる当事者や支援者、医療関係者、社会活動家などが集まり、アートを「対話」のきっかけにし、普段の日常生活を過ごす我々が、様々な問題にいかにして「当事者性」を獲得するかといった議論を重ねていきます。小山田さんの活動から“福祉”という領域をどのように切り開いて行くのか、糸賀思想とのつながりは?対談最終回です。どうぞお楽しみください。

糸賀一雄氏と今が繋がる

アサダワタル

1945年以降の戦後の話ですが、50年代60年代、近江学園を立ち上げられたり、先進的な福祉事業をされてきた糸賀一雄さんの取り組みについて少しお話できたらと思います。糸賀一雄さんの実践から生まれた言葉として、例えば「この子らを世の光に」がありますが、今時を経て、糸賀さんの書籍や活動を小山田さんがされている活動から見られた時に、率直にどういう印象を受けましたか。

小山田徹

一言で言うと本当に頭が下がるんですよね。こんな頭が下がるという言い方が不遜なんですけど、でもちょっと驚きを持って読ませて頂きました。改めて。というのは糸賀さんだけの話ではなくて、この文章の中には本当にたくさんの方々がいろんな時点で参画して協力しながら展開を見せて来た歴史自体があってね。驚きを持って読ませていただきました。私欲みたいなものをできるだけ圧縮して色んなものを引き寄せるんですよね。そういう力っていうものが組み合わさって、こういう大きな立ち上がりと持続を見せているんじゃないかと思います。局所局所で存在された個人の方々の総体っていうのが、巨大な吸引力、磁場を持っているような感じがしました。人間が“福祉”という概念を獲得することは本当にすごい道のりを経てきてるんだなという感覚が、一番大きかったかな。

アサダワタル

糸賀さんの書籍や活動に触れて改めて思うのは、大きな福祉制度であるとか、政治が決めることなんじゃないかと言われているような、一見誰かもがタッチできないぐらいに思われていることも、実は一人一人の個人の関係性の中から積み重なっていって出来上がっているということです。小山田さんの前回のお話で出てきたアートスケープの話、様々なコミュニティセンターを作って行くお話と通じる所があるなと改めて思いましたね。

小山田徹

大きなものを大きな枠で大文字の言葉で作りあげるってことは、やはりそれではできないんじゃないかと思うんです。小文字の言葉、小さな出来事の集積、様々な個人の集まり、そういうものの活動の総体が、大きなものを作ることに繋がっているという考え方を、どうしたら共有できるのか。それを糸賀さんの本を読むと考えさせられるよね。

アサダワタル

そうですね。個人的に『この子らを世の光に』を読んだ時に面白かったのは「初心忘るべきや!」という章で、炊事場を教育の場に開くという話が書いてあり、ここを読んだ時に、「これ、小山田さんの活動ととめちゃくちゃ繋がるな」と思ったんですよ。

小山田徹

背に腹はかえられない状態での判断だと思うんだけど。

アサダワタル

もちろん時代背景があっての話なんで今とは全然違うと思うんですが、でも通底しているものはあるかと。

小山田徹

とりあえず最初皆で貯めたお金で何を優先的に作らなきゃ行けないかという判断として、炊事場を作るというのはすごく示唆に富む話でね。

アサダワタル

感動しましたね。

小山田徹

生命の根源として日々食べるものを作る場所というのをね、しかもそこを教養の学びの場としての意識で作ることはすごい事だなと。地域の方々との繋がりの場というのは食料をどう獲得するかという関係の中からも出てくるし、そういう繋がりの中から出てくる関係というのは本物だったんだろうなと。それが後々の、こういう福祉活動を支える人々を作って行く原動力になってるような気がするよね。

“福祉”とは何か

アサダワタル

少し抽象的な質問なんですが、小山田さんにとって“福祉”という言葉の持つイメージといいますか、今回もこの「Glow」という番組では、福祉という領域をかなり広い意味で捉え、文化的な視点から考えていこうという事をテーマにしているんですが、この言葉を聞いた時に改めてどういうイメージをされているか、あるいはしていきたいと思うか、お話出来ればと思います。

小山田徹

私にとっては福祉という言葉と美術とか学問とか科学とかそういうものはほとんど同義語で、世の中の多様性というものが保持されるための社会とか、保持される社会のためにあるべきものです。様々な多様な精神性というものをこの世の中に存在することを確認するためにあるような。

アサダワタル

実存というか、生きていくあり方そのものの色んなパターンを文学から学ぶことに近いというか。

小山田徹

どれが一番なんてものは無いんですよね。その多様性を楽しめる、味わえる奥まで噛み締める。そういう感覚を自分たちが持ち得るために様々な手だてがあると。福祉というのは色んな必要性がありながら作られてきた制度だと思うんだけど、その総体が人々に及ぼす影響という最たるものは「多様性に気づかせてくれること」、「多様性を考えざるを得なくなること」にあるかなと。

「ちっちゃい火を囲む」プロジェクト

アサダワタル

ありがとうございます。具体的な小山田さんの今後のプロジェクトを紹介させてください。近江八幡にボーダレス・アートミュージアムNO-MAという美術館があります。これは社会福祉法人滋賀県社会福祉事業団という福祉の団体が運営している美術館です。なかなかユニークな取り組みなんですが、その美術館にて現在「カソケキ+チカラ」という企画展が開催されているんですね。幽けき(カソケキ)、壊れそうで弱い、そういう存在の中でこそ想像を超える表現の力があるんじゃないかという展覧会です。それに関連する企画で、小山田さんがずっとお話されている「ちっちゃい火を囲む」という取り組みを11月16日にされるという事なんですけど、これは具体的にどのような事をされるのでしょうか。

小山田徹

そう、「ちっちゃい火を囲む」。通称「ちび火」というのがあるんだけどね。

アサダワタル

通称があるんだ(笑)

小山田徹

これは、「対話の場を多様に持ちたい」という思いがあって、それに一番有効な方法っていうのは、僕の中では、色々とやった経験の中で、火である思ったんです。たき火は世界最古で、世界最小の共有空間だと思ってるんですよ。

アサダワタル

そっか……。

小山田徹

人類は、人類の先輩の方々も含めて、何百万年も前から毎日火を焚いてその前に集ってやってきた経緯があってね。でも、この40年ぐらいで急速に直火から遠ざかってるんですよね。

アサダワタル

そうですよね。直火。あたる事なかなか無いですよね。

小山田徹

でもね、それまでの何百万年の時間が人間の精神に影響を与えないはずがないんですよ。何かが培われているはずでね。実際にたき火にあたってみると本当に穏やかな精神性を獲得出来たりとか、あるいは興奮もする。色んな作用があるんだけど、でも人々が集まりやすい場になるのは、多くの方が経験されている事なんですよね。そういうものを核とする色んな企画を美術という立場でやると実は実現しやすいということがあるんですよ。まあこれはズルい手なんですけど。

アサダワタル

まさに隙間ですね。そこ狙って美術というフィールドからたき火をしようと。

小山田徹

今回もボーダレス・アートミュージアムNO-MAの方から相談があった時におそるおそる「たき火……、出来ませんかね?」て言ったら、ご尽力されて、実現出来る事になってね。ミュージアムの近くの公園でたき火場が作れる事になって、しかも、沢山のたき火場を作れるんです。

アサダワタル

いいですね。小さい火がいっぱい。

小山田徹

でかい火はね、あそこは祭りとしてそういう風趣がある地域なんでそれはそっちでやっていただきつつ、今回やるのは小さいたき火を沢山。それと色々な手作りの屋台が参加して下さることになって、食べ物、飲み物、音楽色んなものを一緒に楽しみながら緩やかに過ごして行ける場を設定しようかなというのがこの「ちっちゃい火を囲む」というプロジェクトです。

アサダワタル

さて、計3回に渡って小山田さんに色んなお話をしていただきました。

小山田徹

これからも色んな所でお会い出来たらと思います。

アサダワタル

ぜひよろしくお願いします!ありがとうございました。

小山田徹さんの話、いかがだったでしょうか。美術、アートといったフィールドのイメージからかけ離れたことを皆さんお感じになられたかもしれません。福祉という分野、あるいは医療という分野にクリエイティブな文化という視点が入り込み、そしてそのことによって普段の専門性や目の前にある「支援をしないといけない」、あるいは「看護をしないといけない」、「治療をしないといけない」といった福祉や医療の現場の中で起こっているコミュニケーションとはまた違った風景が立ち現れる。そのことで、人と人とがどのようにして新しい関係性を切り開いていくか、あるいは結んでいくか、そういった事例を、小山田さんが作っておられる様々な共有空間からみてきました。というフィールドを新しく捉えなおす、きっかけを皆さんが得てくれたのであれば、とても嬉しいなと思います。

※1 糸賀さんの書籍

『復刊 この子らを世の光に 近江学園二十年の願い』(NHK出版)
『糸賀一雄の最後の講義 愛と共感の教育[改訂版]』(中川書店)
『福祉の思想』(NHKブックス)
の三冊を、事前に小山田さんに読んでいただきました。

※2 「ちっちゃい火を囲む」

日常の垣根を越えた出会いから「社会」を再発見する」というテーマで、美術家・小山田徹氏の作品『ちっちゃい火』を囲みながら、おしゃべりや珈琲、出会いを楽しんでみようというイベント。ボーダレス・アートミュージアムNO-MAのウェブサイトに当日のレポートが掲載されています。
NO-MAのちっちゃなお祭りレポート | ボーダレス・アートミュージアム NO-MA

小山田徹美術家・京都市立芸術大学准教授

1961年鹿児島に生まれる。京都市立芸術大学日本画科卒業。84年、大学在学中に友人たちとパフォーマンスグループ「ダムタイプ」を結成。ダムタイプの活動と平行して90年から、さまざまな共有空間の開発を始め、コミュニティセンター「アートスケープ」「ウィークエンドカフェ」などの企画をおこなうほか、コミュニティカフェである「Bazaar Cafe」の立ち上げに参加。日本洞窟学会会員。

小山田徹
パーソナリティ アサダワタル

1979年大阪生まれ。日常編集家。公私の狭間、異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、音楽、文章、プロジェクトを通じて創作・提案。2002 年、バンド 越後屋のドラマーとして、くるり主宰レーベル「NMR」より2枚のCDをリリース。その後、音楽を主体に各地でソロライブ、プロジェクト、ワークショップを展開しつつ、2013年、ドラムを担当するSjQ++にて、アルスエレクトロニカ準グランプリ受賞。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社、編著)『編集進化論 editするのは誰か』(フィルムアート社、共著)等。『ソトコト』や『マガジン航』等で連載。神戸女学院非常勤講師。

アサダワタル

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