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上田假奈代『ソーシャルインクルーシブ(社会包摂型)なアート活動 〜大阪西成の実践から〜』(3/3)

  • 上田 假奈代詩人・NPO法人cocoroom代表理事
上田假奈代『ソーシャルインクルーシブ(社会包摂型)なアート活動 〜大阪西成の実践から〜』(3/3)

上田さんは、詩人として、視覚障害のある方の集まるライトハウスでの「詩の学校」の展開をはじめ、様々な障害のある方との恊働による作品制作を90年代から続けてきました。そんな彼女は2003年より、大阪の浪速区新世界、そして西成区釜ヶ崎にて「ココルーム」という名のコミュニティカフェを運営しています。ここでのテーマは「表現と自立と社会」。「ことば」の力を信じて、「どんな人生であっても肯定できる、自分だけの生を生ききる」人生をつくるために、上田さんは、新たな場所での表現活動を模索し続けます。いまでは、様々な就労の問題や精神の問題などを抱える、西成の生活保護受給者や、障害のある人、生きづらさを抱える若者たちなどとの対話を始め、様々な福祉活動と芸術活動を推進しています。そんな彼女の活動と糸賀一雄さんとの実践が時代を超えて繋がります。どうぞお楽しみください。

人間と人間との関係が人間を形成していく

アサダワタル

ココルームという拠点のお話、釜ヶ崎という街のお話から、詩人として色んな体験をされてきたお話をこれまでして頂きました。改めて「Glow〜生きることが光になる〜」という番組の背景になる糸賀一雄さんという日本の障害者福祉の歴史を作られた方の書籍や活動の話について、お聞きしたいです。今目の目の前に糸賀一雄さんの著書が置かれているんですけども、率直に気になることはありましたか。

上田假奈代

糸賀さん素晴らしい方ですよね。会いたかった。

アサダワタル

生誕100年に蘇りが起こるかもしれないですね。

上田假奈代

凄い大事なことを簡単なことばでおっしゃってますよね。

アサダワタル

そうですよね、とても平明に。ただ強調するところはすごくぐっと入ってくるような言葉で講演されているんだと思いますよね。

上田假奈代

素晴らしい。気になる箇所を線を引っ張ってるんですよ。この部分です。

アサダワタル

糸賀一雄さんの最後の講義の「愛と共感と教育」からですね。

上田假奈代

「人間である。人間と人間との関係が人間を形成していく」まさに人間が人と人との間だって書くことをおっしゃっているんですよね。つまり福祉というのは、お世話する人される人、支援する人される人ではなくて人間と人間との関係であるということを言ってらっしゃいますよね。これは素晴らしい。

アサダワタル

これまでの上田さんの活動は、今の人間と人間が関係性を築いていくという話と色んな所で繋がっていると思うんですけども、実際支援する/されるという話でいうと、例えば前回詩のワークショップの話の中で、上田さん自身も元気になるみたいな、そのワークショップに参加された方に変化が訪れるその様子を見ていっぱい学ぶことがあるみたいなね。そういうことって日々とっても多いんじゃないかなと思うんです。今ココルームや釜ヶ崎での日常を過ごされていて、一方的な型にはまった関係じゃないようなコミュニケーションがその時々に生まれていると思うんですけど、自分がいま助けられてるなぁとか、逆に自分が場を作ってやっている立場ではあるけれども、自分も何か得て助けられてるなぁって思うような瞬間ってありますか。

上田假奈代

しょっちゅうですよね。釜ヶ崎で喫茶店みたいな場をして居場所を作ってという話だと、ともかく皆さん「何でそんなことをするんですか」とか「支援をしていて凄いですね」と思い込まれるんだけど……。「いやいや!そんなことない」と思っていて。ここでどんだけ、面白いことを味あわせてもらって学んでるかと思うと、「いや違うんですよ」って言ってもなかなか分かってもらえないんですね。人は一人では生きられなくて、それはお金があっても無くても、困難な状況にあってもなくても、一人では生きていけないわけで、そのお互いがお互い関わりあっているということに生きてることの面白さっていうのはあるから、その関係性をどう表しあえるかかなと思っているんですね。ここで大事なのって「表す」ということ。ついつい固定化しがちなんですよ。関係って。何かそこで一緒に何かものを作ったりして「表される」と、面白くてほぐれる、はっとしてほぐれる。実は「あなた、こんなこと思ってたのね」とか表されたものを通じて分るとかね。そのはっとするところが大事。「表し合える関係」が無いっていうことが致命的にしんどいことだと思うのよね。

表現し ほぐし合って また一人になるサイクル

アサダワタル

ココルームの活動は僕も10年前に立ち上がった時ぐらいからスタッフとして現場にも関わらして頂いてたんですけど、お互いを表し合ってほぐし合ってというようなことと、さっきの支援する/されるという関係性が日々どんどん変化して行くみたいなことを僕が凄く感じたのは、「むすび」っていうプロジェクトがあったんですね。生活保護を受けているおじいちゃん達が6人〜7人のメンバーが紙芝居劇をするっていうプロジェクトがあって、そこにココルームや色んなジャンルのアーティストや福祉関係者が関わったりとか、釜ヶ崎の街のおじさん達がさらに関わったりとかして。とにかく皆が関わりあうことによってお互いが成長していくような場が「むすび」を介して生まれていってると思うんですよ。

上田假奈代

そうそう。紙芝居劇「むすび」というグループは野宿生活を経験したりリストラを経験したりして、釜ヶ崎にいらっしゃったおじさん達が生活保護を受けながら地域に根ざした活動をしようということで、紙芝居の劇を始めたんです。この活動をお世話している団体がいなくなった時に、彼らが活動を続けたいと思ってココルームに相談に見えたんですね。その時私はココルームの中で「むすび」の事業をするんじゃなくて、地域の中で「むすび」が自立的に活動出来ることが大事じゃないかなと思ったんですね。そう思った理由のひとつに、福祉のことをちょうど勉強していた友人がパッチワーク理論というのを教えてくれて。

アサダワタル

パッチワーク理論?

上田假奈代

そう。一つの関係だけに依拠するんじゃなくて、色んな関係が交じりあうパッチワークみたいな福祉がいいんだという考え方ですね。「むすび」にもこのパッチワーク理論が当てはまるはずだと思って、地域の色んな人達、このおじさんはこの店のおじさんと話ができるとかね、そういった小さい関係をいっぱい紡いでいく活動がいいんじゃないかと思ったんですね。そのために走り回った。おじさん達は紙芝居の劇をすると、それを見た人達がびっくりするんですね。よぼよぼのおじちゃんが間違えながら、でもめっちゃ面白い劇を展開するんですよ。この声、仕草。人って凄いなという事実を表れていて、見た人がびっくりしながら拍手をしていて、その拍手を受けておじいさんが元気になる。この励まし合ってる循環がパッチワーク理論を広げていくというのがあってね。それが「むすび」の事例を通じて学んだことなんですね。

アサダワタル

なるほど。上田さんがテーマにされている「表現と自立」、そして「仕事と社会」っていうことが「むすび」っていうプロジェクトを通じても表されていますね。表現をすることによってその表現をした人の存在みたいなものを心から感じて、人が集ってくる。だけども、ただ連帯するだけじゃなくてまた一人にかえったときに自分自身がしっかりと生きていくために自立していって……、という関係性がお互い生まれて、また関係して、また一人になってというのを繰り返していく。だからココルームの活動とか、上田さんが詩人としてやって来られている活動というのは、ただ誰かが集ってるというだけじゃなくて、一人に返る時間、そしてまた一人になった時にどういう風に自分の生を受け止めてやっていけるかをもう一回考え直せる。そういう繰り返しがあるんじゃないかと思いました。僕は一人で受け止める時に、同時に自分に寄り添ってくれるものとして言葉っていうことの重要性をね、そう、「言葉を友達にする」みたいな話も以前上田さんから聞いていたんですけれども、言葉を味方につけて、またそのことによって人にも影響を与えて、関係性を作って一人に戻る。そういうサイクルをいつも感じているんです。

上田假奈代

そうなのね。例えば困った事とがあったどうやって乗り越えられるかなと思ったら、新しい言葉を見つけることなのね。でも言葉を見つけるだけで乗り越えられるから不思議よね。

アサダワタル

新しい言葉を見つけると乗り越えられる。例えば言い古されてるようなよくある言葉でも見え方が変わるとか、全然違う言葉として発見されるとか。そういった事も含めてですよね。

上田假奈代

10年前に詩人として仕事を作らなきゃとなったときに、そんなことどうして実現していいか分からないわけ。その時に見つけた言葉は、私がやって誰かに迷惑をかけるのかなと思ったら、ちょっと家族とかは心配かもしれないけど、そんな私が詩人の仕事をするとなったときに大げさに誰かに迷惑をかけることもないし、とって食われるわけでもないし失敗したらごめんなさいっていえば良いんだという言葉を見つけた。その瞬間に、「よし!やれる」って思ったんですね。そのことが自分の気持ちの中から出て来なかったら、やれなかったんですね。自分に色んな言い訳をつけてね。それはちょっと長い言葉なんだけど、人にはそれぞれ自分の状況を納得したりとか、自分は今逃げてるだけなんだなって気がつくだけで、次どうするかというのは見えてきたりする。一人のときに言葉を探す事に集中したり、ちゃんとその事が大事だなって思えたら、また乗り越えられて、また人に出会って取り返せるよね。

アサダワタル

そうですよね。ありがとうございます。三回にわたって、上田假奈代さんにお話をしていただきました。今回の「glow〜生きることが光になる」で上田さんの話から感じ取ってもらえることが少しでもあれば嬉しいなと思います。ということで改めて上田さんどうもありがとうございました。

上田假奈代

ありがとうございました。お元気で。

※1 愛と共感と教育

書籍「糸賀一雄の最後の講義 -愛と共感の教育」(中川書店)のこと。
http://homepage3.nifty.com/nakagawashoten/kyoiku.html

上田假奈代詩人・NPO法人cocoroom代表理事

1969年奈良生まれ。3歳より詩作、17歳から朗読をはじめ、1992年から全国で障がいをもつ人や子ども、 高齢者など幅広い対象に向けてむけて詩のワークショップを行う。また、2003年に、「表現と自律と仕事と社会」をテーマにアートNPO「ココルーム」を設立。現在は大阪市西成区の釜ヶ崎でそのココルームを運営しながら地域に開かれた様々なアートプロジェクトを展開している。大阪市立大学都市研究プラザ研究員。

上田假奈代
パーソナリティ アサダワタル

1979年大阪生まれ。日常編集家。公私の狭間、異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、音楽、文章、プロジェクトを通じて創作・提案。2002 年、バンド 越後屋のドラマーとして、くるり主宰レーベル「NMR」より2枚のCDをリリース。その後、音楽を主体に各地でソロライブ、プロジェクト、ワークショップを展開しつつ、2013年、ドラムを担当するSjQ++にて、アルスエレクトロニカ準グランプリ受賞。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社、編著)『編集進化論 editするのは誰か』(フィルムアート社、共著)等。『ソトコト』や『マガジン航』等で連載。神戸女学院非常勤講師。

アサダワタル

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