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鈴木謙介『“かかわり”あう社会へ 若者 アート これからの福祉』(1/3)

  • 鈴木 謙介社会学者・関西学院大学社会学部准教授
鈴木謙介『“かかわり”あう社会へ 若者 アート これからの福祉』(1/3)

社会学者の鈴木さんは、自身の研究活動と平行して、NHKEテレ「青春リアル」やTBSラジオ「文化系トークラジオ Life」などの司会を務め、いま「生きづらさ」を感じる20代~30代前半の若者たちの意見を聞き取り、彼らの生き方に新しい意味や希望を見いだす、オピニオンリーダーとしても活動されています。障害のある方や高齢者のための「福祉」だけでなく、いまの若い世代にも響く広い意味でのこれからの福祉とは何か、また福祉の現場やまちづくりの現場で昨今注目されるアートの可能性についてなど。改めて糸賀一雄さんの思想もふりかえりながら、語っていただきます。

若者の「生き辛さ」について発信していく

アサダワタル

まず鈴木さんから様々に展開されている活動について少しご紹介頂けたらと思います。

鈴木謙介

はい。大学の先生という肩書きと、それこそラジオに出たり、テレビに出たりしている理由は知らない人からすればよく分からないと思うし知ってる方は知ってるかもしれないけど、見た目も学者っぽくないということもあり、そんなのもあって「何をしてる人なんだろう」と思われがちなんですけども 笑。先ほど20代から30代の若者って話がありましたけど、ちょうど僕が研究を始めた頃は僕自身もそうなんですけど、就職氷河期なんていう風に言われて就職ができない若者達のことが問題になっていったんですね。最初の頃はそれでも「若者が働かないのは怠けているからだ!」みたいなことを思っている人は沢山いたんですけれども、今でこそ、景気の問題とかで就職しにくくなってるという認識が当たり前のようになりました。そこまでの道をたどって行くのと同時に、「今の若者はこういう状況で生き辛いんだよ」という事を言論として世の中に発信して行く必要もあったし、何より20代〜30代の若い人達自身が「なんで自分はこんなに生き辛いんだろう…」とか「これは自分が努力してこなかったからじゃないのか…」などど思っているのに対して、「今の社会はこういう風になっていて、昔は当たり前だと思われていた事が当たり前に送れる人がどんどん少なくなっているんだよ」と伝える必要があったり、もっと言えばその当たり前の道というのが狭くなった分こぼれ落ちてしまう人達が沢山いて、その人達に対 して色んな事を手当をしたり、それこそ福祉のような形で手当をしたり考えていったり、あるいは僕ら自身が、お互いに手助けをしていかなければ行けないという事に目を向けるための活動として、例えばメディアに出たり本を書いたりとかしてるんですね。

アサダワタル

なるほど。今、鈴木さんがお話をされているような生き辛い状況の中で、例えば上の世代、さらに鈴木さんの本の中で「黄金世代」みたいな時代の話もありましたけど、そういう景気が良くて、自分たちがやった事がすぐに経済的にも成果として現れやすい世代があったわけですよね。そういった世代が前提となった価値観というものがまだ今の時代に流れながら、でもその上に乗っかっている若者の時代というのは実はそのベースの部分が崩れているということに気づかない状態で、そこに対して世代間でも「お前達、頑張ってないじゃないか!」と言われ続けるみたいなことがあると。さて、現状に対して自分たちの世代の感覚を若い人達自身が伝えて行く、その方法みたいな事についてどういう風にお考えですか。

鈴木謙介

一つは自分の置かれている状況が分かるという事が大事だと思うんですね。先ほど、「就職出来ないというのはもしかしたら自分のせいじゃないか」といった話をしましたけど、そういう風に思っていると、例えば他に就職出来ない人がいてもその人のせいだし、自分が頑張らなかったから悪いんだから、誰かに手を差し伸べてもらう事が恥ずかしい事で、要は出来る限り避けないといけないことだと思えてしまう。

アサダワタル

一人で、全部自分でできる事がカッコいいと自分自身で思ってしまうと。

鈴木謙介

カッコいいというより当たり前。自分は当たり前の事ができない劣った人間なんだと思うようになりますよね。でもそうじゃなくて、一定数そういう人達がいて、しかもそれはその人の能力や努力とは関係なくほぼ偶然のような感じで決まってしまうと。そういう事を分かってみると、「誰かが手当をしたりとか手助けをしながら一緒に生きていかないと」とか、「もう誰でもこういう事が出来て当たり前だよという前提で社会を作る方が、あるいは社会を考える方が間違ってるんだ」とは思えないですし、その事に気づくのが一番最初に大事なのかなと思うんですよ。そうしないとどんな仕組みを社会で作っても、恥ずかしいから嫌だとか、あるいはそういう事を受け入れるのが格好悪いからとか、そういった意識から抜け出せないままになるだけじゃなくて、他の人と手を取り合う事が出来ないわけなんですね。何故なら自分の問題だって話になりますから。社会の問題だってことはもしかしたら自分もそういう風に不利な状況に置かれていたかもしれないんだったら、その人達が不利な状況にあるのは偶然でしかないんだから、「一緒に手助けをしてともに生きて行く社会を作るべきだよね」っていう風に思えるようになる。そこが若者の働き方については10年ぐらい前とは随分状況が変わったんですね。恐らくその次は今度は結婚や子育ての話になると思います。

アサダワタル

なるほど、働き方から次そこの問題へとシフトしていくわけですね。

鈴木謙介

お金がなくて結婚出来ないとか、出産に踏み切れないとかという事がようやく今言われるようになって来たけれども、一方で例えば婚活だとか、あるいは結婚について大学の授業で考えてみようとか、ああいうものが表しているのは、「結婚なんて誰でもできるのに気持ちが追いついてないから出来ないんだ」という風潮がどこかにあるからなんだと思います。これ就職とよく似てますよね。頑張れば、仕事はあるのに怠けて自分の選り好みをして探さない奴が悪いという主張とかなり似ている。でも今10年経って若者にそうやって若者のせいだってしたせいで、その当時の就職出来なかった人達のかなりの数が中年フリーターとして今それこそ福祉財政を圧迫しているわけです。恐らく10年経った時に子育てとか結婚とかについて、僕たちは何て馬鹿な事を言っていたんだろうということに気づく時代がくる。もっと早く来てほしいんだけど、そういう時代がすぐ目の前にやってくると思うんですね。でもそうなる前に、これは本人の気持ちの問題もあるけれども、それ以上にしたくてもできない、あるいは踏み切りたくても踏み切れない、そういう社会の問題があるんだということを、そこに気持ちを持って行く必要があるし、その時に社会というものがどういう風に作られて来たのか、そしてその社会はどういう風な社会を理想と思って来たのか、それを知っておく事って一つのヒントになるんですね。

ラジオ番組から気づく社会の構造

アサダワタル

鈴木さんが社会学という事を軸にしながら、一方で「Life」というラジオ番組などでも発信されていますね。僕自身も「Life」にはかなり影響を受けたという事もあって、今回「Life」でパーソナリティをしている鈴木さんに出て頂きたいなという事もあったんですが、今で何年目ですか?

鈴木謙介

7年ぐらいやってるんですね。

アサダワタル

長い、素晴らしい!長寿番組ですね 笑。実際ずっと番組をやられている中で変化というものを感じますか。リスナーから出てくる意見の中で。

鈴木謙介

時代がもちろん変わっているし、リスナー層も変わってくるので、出てくる意見も少しずつ変わっては来るんですけども。最初の頃に比べて少し肩の力が抜けたというか、「Life」を自慢するわけじゃないんだけど、初めて番組を始めた頃というのは、ラジオ番組で何か喋る時に明け透けなトークがなかなかできなかったんですね。明け透けって言うのは恥ずかしい事をいうってことではなくて、普段喋っているように喋るということが出来なくて。僕らのように、友達と学食で喋るようなノリで喋るという事自体がなかなか(ラジオ番組として)受け入れられなかったり、「こんなものは…」と思う方も沢山いたんですね。ところがそのあと似たような感じで、自由に喋ってみようという場がそれこそネットラジオも含めて沢山出て来た結果、昔よりも肩の力を抜いた状態で喋れる方が増えて、普通の喋り方なんだけど、なんかちょっと新しい喋り方を見つけたなって。だって人の前で悩みとか恥ずかしい話とかをそのまま語るってできないんじゃないかと。例えば女の子といい感じになったんだけど、勇気出せなくて終わっちゃってみたいな話とかって出来ないじゃないですか、普通には 笑。そういうことが普通に喋れるということが凄く大事なんじゃないかと思うので、何かもっと色んな体験をしている方が(ラジオを通じて)出て来てもいいと思いますけど。今やってきて思うのは、「かっこつけなくてもいいんだよ」ってこと。かっこつけなくても何かを喋るとラジオという媒体を通じて「分かる分かる」っていう人のところに届くことがあるんだということです。それを作って来たのが、一つ「Life」でやってきて見えた事かなと思いますね。

アサダワタル

なるほど、確かにそういう風に、番組に出てらっしゃるような鈴木さんや他のサブパーソナリティの方々が語る事と、そこに共感してまたリスナーの方が喋るという事が、さらにリスナーの方が喋った情報というのを、また聞いている人が受け取って行くみたいなサイクルを感じつつ、「素に近い」というかリアリティのある意見に変わって行ってる気が、番組を聞いてて凄く思っていたんですよね。

鈴木謙介

そういう中でこれは個人的に喋っている思い出のようで、世の中の構造に引っかかるような問題なのかなという発言が「実は私も派遣社員なんだけど」とかね。そうそう、こないだ番組をやってて衝撃的だったのは、とある農家に生まれて「女には勉強はいらない」みたいな事を言われて何とか頼み込んで高校だけは出してもらったけど、みたいな話があって。

アサダワタル

それどれくらいの世代の方ですか?

鈴木謙介

僕と同い年です。

アサダワタル

あるんですねそういう話。この世代でも……。

鈴木謙介

それでやっと今旦那さんのすすめもあって、勉強を色々し直していて学ぶということが本当に楽しくて、旦那のすすめで今回もラジオに投稿しましたみたいな話があってね。みんな衝撃を受ける訳です。こんな昭和みたいな話が。

アサダワタル

それ聞いただけでは、正直大分上の人の世代の話かと思いましたよ。

「二段構えの体験」

鈴木謙介

僕もそれを見ながら「えっ!?」て思うんですけど、でも大分上とは言いつつも、それこそ小学校も中学校もちゃんと出ていなくて、平仮名からやり直す夜間中学みたいなものは今でもあるわけですよね。だからそんなに大昔の事でもない。せいぜい僕らのお父さんお母さんぐらいのころには当たり前にあった現実なわけです。それが自分たちの世代にもいるということが、そこで明らかにされた時に、初めて自分たちの生きている社会っていうものがふっと開かれてみた時に見えなかったものが見えてくるんじゃなくて、当たり前にそこにあったものとして提示されるというか。「こんな人もリスナーなんだ」みたいな形で、自分に繋がりのある社会の中に色んな層が重なっていて、自分が気づいてなかったものが沢山あるんだというね。この「二段構えの体験」て大事だなと思うんですよ。まず当たり前に当たり前を共有出来る場があって、その中に当たり前のように見えて自分とは全然違うものがある。この二段構えの体験が恐らく聞いている人達の中に一つの変化と言うか意識の変化みたいなものをもたらしていくんだなと。今は最近の例で一番衝撃的な例を挙げましたけど、こういう小さい出来事でもこういうことが沢山積み重なっていって何か自分の世界が開かれて行くという感覚を持って行くと凄く嬉しいなと思うんですよね。

アサダワタル

とても個人的で小さな出来事からそれが、色んな人達で共有されたりとか自分は違う感覚があるなとか二段構えで感じる。そこに多様性があったりとか。そうしながらその延長線上である意味では大きな社会のシステムみたいなこととの繋がりが当事者的に感じられるような瞬間というのが出てくると思うんですけど。次回以降は、もう少し広い観点の福祉の制度とかについても少しお話し出来たらと思いますのでよろしくお願いします。どうもありがとうございました。

鈴木謙介

ありがとうございました。

※1 「文化系トークラジオ Life」

2006年10月7日からTBSラジオで放送されている生放送のラジオ番組。サブカルチャー分析を通じた社会時評がテーマ。文化系サークルの部室のような楽しさを追求する番組。番組サイトではPodcastingで本編と外伝が公開されている。ロゴ、イラストは、漫画家の浅野いにおが担当(Wikipediaより)。
http://www.tbsradio.jp/life/

鈴木謙介社会学者・関西学院大学社会学部准教授

1976年福岡県生まれ。東京都立大学(現・首都大学)大学院社会科学研究科博士課程にて、理論社会学を専攻。現在は、関西学院大学社会学部准教授。著者に『カーニヴァル化する社会』(講談社)、『SQ “かかわり”の知能指数』(ディスカバートゥエンティワン)また、2013年8月に新著『ウェブ社会のゆくえ』をNHK出版より刊行。TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」パーソナリティ。

鈴木謙介
パーソナリティ アサダワタル

1979年大阪生まれ。日常編集家。公私の狭間、異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、音楽、文章、プロジェクトを通じて創作・提案。2002 年、バンド 越後屋のドラマーとして、くるり主宰レーベル「NMR」より2枚のCDをリリース。その後、音楽を主体に各地でソロライブ、プロジェクト、ワークショップを展開しつつ、2013年、ドラムを担当するSjQ++にて、アルスエレクトロニカ準グランプリ受賞。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社、編著)『編集進化論 editするのは誰か』(フィルムアート社、共著)等。『ソトコト』や『マガジン航』等で連載。神戸女学院非常勤講師。

アサダワタル

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