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鈴木謙介『“かかわり”あう社会へ 若者 アート これからの福祉』(3/3)

  • 鈴木 謙介社会学者・関西学院大学社会学部准教授
鈴木謙介『“かかわり”あう社会へ 若者 アート これからの福祉』(3/3)

社会学者の鈴木さんは、自身の研究活動と平行して、NHKEテレ「青春リアル」やTBSラジオ「文化系トークラジオ Life」などの司会を務め、いま「生きづらさ」を感じる20代~30代前半の若者たちの意見を聞き取り、彼らの生き方に新しい意味や希望を見いだす、オピニオンリーダーとしても活動されています。障害のある方や高齢者のための「福祉」だけでなく、いまの若い世代にも響く広い意味でのこれからの福祉とは何か、また福祉の現場やまちづくりの現場で昨今注目されるアートの可能性についてなど。改めて糸賀一雄さんの思想もふりかえりながら、語っていただきます。

外側から社会を見る目線としてのアート

アサダワタル

あらためてこの番組の中で「福祉」というものをテーマにした時に、今、福祉に限らず価値観を多様にしてゆくための一つの手法というか考え方として、「アート」や「文化芸術」、場合によっては「デザイン」みたいな領域で行われているコミュニケーションが、色んな分野、例えばまちづくりや教育などにも扱われていく事が多くなっていますよね。では、いまなぜ福祉という現場の中でにおいても、「一体、アートと福祉がどう繋がるんだ?!」という風に思われる方はまだまだ多いと思うんですよね。でも実際には福祉とアートがつながるシーン自体はとても増えてきていると。その事に関して鈴木さんはどのように思ってらっしゃるかということから始めたいと思います。

鈴木謙介

「アウトサイダーアート」という言い方が良くないという方もいると思うんですよね。「アウトサイダーアート」と言ってしまうと、どうしても、障がい者の方が作った作品というところだけがクローズアップされてしまう。それだけじゃないんだけど本当は。

アサダワタル

属性が一気にクローズアップされちゃいますよね。

鈴木謙介

もっと芸術作品としての評価の部分を見たいんだということで、「アール・ブリュット」なんて言い方もあるんだと思うんですが、これおそらく芸術というものが社会の中で果たす役割の問題だと思うんですね。前回の放送で、今までの社会というのは足の速い人だけを集めて行われているレースやかけっこだけだったという前提で、足の遅い人を邪魔者扱いするように組織というものをつくってきたと。そうなんだけども、今色んな価値観が出て来て色んな評価をすることができるんだよという話をしたと思います。 そのときに何が重要かというと、まさに僕たちが当たり前だと思っているものの外側から社会を見る目線というのが非常に重要になってくるんですね。特に健常者の僕らが生きている社会というのは言ってみれば合理的かつ評価軸をきちんと数字で出せるような世界なんです。でも当たり前ですが、それはその世界が正しいからそうなっているわけではなくて、たまたまあるルール、例えばかけっこならそのかけっこをするのに都合が良かったから作った仕組みでしかないんですね。ところが、かけっこをしない人の世界から見るとこれだけで世界が全然違って見える。例えばね、僕海外行くとよくお笑い番組見るんですけれども。

アサダワタル

海外でお笑い番組!?笑

鈴木謙介

お笑い番組を音を消して映像だけ見るんですよ。すっごい不思議ですよ!

アサダワタル

その状況はどういう……!?

鈴木謙介

皆さんもそうなんですけど、家帰ってお笑い番組を音消してみて下さい。あんなに笑えてたものが、全く笑えなくなりますから。例えば、これが外側の目線から何かを見るという事だと思うんですね。つまり僕たちの生きている社会はちょっと視点を変えてみたら、すごく変な事をいっぱいしているように見えるんですよ。でもそれを当たり前に、「面白い」とか「正しい」ものとして受け取れるような環境の中で僕たちは生きている。だから普段は何も違和感はない。そして、「いや、音消してみたら全然変だよ!」って言って見せるのがアートの力なんですよね。アートってそういう意味で評価軸に乗ってこないものだからまさに僕たちの作っている評価軸で作れる社会の外側にすごく立ちやすい。その時にたまさか障がいを持っている方の目線というか、あるいはその人達の生きている世界というものが、作品を通じてあらわにされたときに、その方の評価だとか、その作品の芸術上の評価は分かりませんが、ただただ僕らの社会にとって外側から見ると「こんな風に見えるんだ!」とか、僕らの世界の外側にこ「んな風に世界を見てる人がいるんだ!」という、体験自体が衝撃だし意味を持ちます。そういう価値観なり足場なりを崩してくれる感覚を持つものって大事だと思うんですよね。

アサダワタル

その世界の見方であるとか世界との繋がり方みたいなことの、それこそ色んなバリエーションみたいなものがきっとあるはずなんですよね。分かりやすく五感の使い方を例にお話しして頂きましたけども、今自分たちがもっている「五感+常識」みたいなものの中で見ている情報を少しずつボリュームを下げて行ったりしてですね、それでちょっと変えた時に、「あれ!?」って思って全然違う視点を持ってしまうことがありますよね。例えば、障がいのある方の作品の際におっしゃったように作品を通じて僕らがその世界に触れられるというような状況ありますけども、それはその方々の価値観というか見え方そのものなんですよね。僕らが本当はアクセスしている部分っていうのは「作品」っていうものが間に挟まるんですけれども、何か僕自身アールブリュットって言われる作品を展覧会場で見る時に、その方がどういう生活を普段送っていて どういう状況でそれを生み出して、どうこの世界を知覚しているのかというのがすごく気になるんですよ。

鈴木謙介

最近それこそ注目を集めている「ダイアログ・イン・ザ・ダーグ」という取り組みがありますけども、暗闇の中で視覚障がいのある方と一緒に手を引かれながら歩くという体験をするんですけれども予約いっぱいで全然入れないという。

アサダワタル

すごい人気ですよね。

鈴木謙介

ただエンターテイメントとして人気というわけではおそらくなくて、まさに僕たちがこの世界を生きている時に震災もありましたし,景気の問題もありますけど、やはり当たり前のように明日もこの世界があるという感覚自体がちょっと揺らいでいるんだと思うんですよ。その時にこの世界の外側からこの社会を見た時にどうなるんだろうというような事に興味を持っている方ってすごく増えてるんだと思うんですね。この番組で何度かお話をしているように、今、当たり前の道の外側にグレーゾーンが広がっていく中で、福祉の制度に乗るか乗らないかではないところで手助けを必要としている人がいたり、単にそういう生き方があるんだとかそういうことで苦しんでいるんだということを知ってほしいというレベルで生きてらっしゃる方が沢山いる。アートと福祉の話は、その話に繋がってくるんじゃないかなと思ったんです。

あらゆる価値が地続きに繋がる未来へ そして「言葉」を武器に

アサダワタル

今の状況とはまた全然違うんですけれども。この番組の背景に糸賀一雄さんという存在がありまして、まさに福祉制度とかがほとんど何もない時代に、何かしらの困難な状況にある人達にどういう風にまなざしを向け、なおかつただ一方的にまなざしを向けるだけじゃなくてその人たち自身が世の中の光になっていく、まさに「この子らを世の光に」という言葉と思想を表していかれたわけなんですけども。その状況、まさに制度が確立されていき一方それが常識になると、障がいがあるかないかみたいな視点しか見られなくなってしまうという状況が生まれてきていると思うんですけれども。

鈴木謙介

制度があるというのは重要です。ただそれこそ糸賀さんの福祉の思想の中で相対的価値というのをおっしゃってるんですけど、要するに「美しい」とか「醜い」とかいう価値観の中に例えば、障がい者というものを押し込める事が良くないんだと。絶対的な価値の中で障がいのある人に手を差し伸べましょうじゃなくて違う価値観の中で色んな人が生きていることをまず認めましょうと。この話っていうのはおそらく今の相対的な価値観や生き方の状況の中で苦しんだり悩んだりする人が沢山いてそのグレーゾーンの最果てにもちろん制度で助けを必要とする人達もいるけれども、「その人たちとはきちんと繋がっていてそれは僕たちのこの社会の中の確実な一部を占めていて当たり前のように隣にいる存在なんだよ」という事を知る。そのことについて多分書かれていると思うんですね。

アサダワタル

「当たり前のように地続きで繋がっているという状況」を感じるために、一方で文化みたいなものを使う事で制度の存在を頼りにするだけでは見えなかったような繋がり方が見えたり、自分が意識しなかったような物の見方とかを再発見出来るという現状が生まれつつあると思うんです。もちろん僕も制度は大事だとは思っているんですけど、そこのバランスというか、それは一方ありながらそういう個人の営みとして文化芸術というものがあって、いきなりわけのわからないアーティストの作品みたいなものでこんな風に世の中が見えるのかというようなこともあると。そしてさらに重要なのは、僕自身いつも思っていることなんですけど、その外側の視点としてのアートをある種一日のお祭りとして、あるいは非日常を体験するという意味だけじゃないようにどうしたら僕らの意識や知覚を変えていけるかということだと思っているんです。例えばダイアログ・イン・ザ・ダーグとかもそうですけど、そこで得た感覚を持って帰って、日常生活の中にまた「地続き」に響かせていくというというのはどういう風にすればいいのかと……。

鈴木謙介

まずは「言葉」だと思いますよ。もちろん言葉をうまく使える方も使えない方もいると思うんですけども、僕らの社会に昔と違ってすごく開かれたものがあるとすればね。例えばネットも含めた言葉を発することができる道具というものが沢山出て来たと思うんですね。文字や言葉を使って自分の事を表現していく、それを誰かに伝えるという事が昔よりもすごく簡単に出来るようになりました。何かそこで見た体験というもの、あるいはそこで得た世界の外側の見方というものを持って帰る事ができるとすれば、まさに誰かにメールで伝えるだとか、ブログに書いてみるだとか、友達とお茶してしゃべってみるだとかそういうことだと思うんですね。自分一人の体験にして飲み込んでしまうんじゃなくてまた次の場所に開かれて行く事、開かれていきながらその人がまた違う何かに開かれて行く事、この連鎖をとにかく開いて行く事が社会の中で今必要とされていると思いますし、まさに前回から言っているボーダーにあるの人達、グレーゾーンに生きる人達と手を取り合った社会を作って行くための一番のきっかけになるんじゃないかなと思います。

アサダワタル

「ネットを含めて“言葉”」というお話をしていただきましたけど、「言葉」っていうものを一つ武器にしながら現実に起きている物事とかコミュニティのあり方を読み替えていくみたいな事というのを、それこそ今年の夏に出された『WEB社会のゆくえ』という本で書かれてらっしゃると思います。とっても面白く読ませて頂いたんですけど、ある意味ではネットやソーシャルネットワークの中で分断されているという状況がありながらも、一方で自分たち自身が「情報」でコミュニティを上書きしていきながら繋がりなおしていくみたいなことが、僕自身にとっても非常にリアリティを感じたんです。今回は鈴木さん最後の放送となりますのでぜひ少しこの本で書かれている事もご紹介いただけたら。

鈴木謙介

今のインターネットの社会がどうなっているのかという事を考える時に、どうしてもインターネットっていうと部屋に引きこもってパソコンでというふうに考えてらっしゃる方が多いんですけれども、現実は例えば、スマートフォンで町中を歩きながらアクセスするものになってますよね。最近、歩きスマホが危ないみたいな話もありますけど、今いる場所とネットで繋がっている場所というのが現実空間でうまく繋がらない状態で僕たちは生きることになるんですね。そういう社会の中で、例えばコミュニティだとか一緒に生活するという環境も目の前に人がいるのに仲のいい友達とSNSでコミュニケーションしているみたいな事になってしまう。その時に何か現実の空間の持っている価値というものをうまくネットと共存する形で取り戻せないかなという事を色々考えた本なんです。例えば震災の話だとかを挙げながら「記憶の風化を防ぐためには……」なんてよく話題にあかるわけですけども、放っておくと風化していくものをどうやって人々の体験の中に落とし込みながら、インターネット社会と共存する形で「この場所にはかつてこういう事があったんだよ」という風に伝えられるかどうか、その取り組みのヒントみたいなものを提示している本なのでそれこそアサダさんのような表現活動をしている人にとっては多分インスピレーションになる部分は多いんじゃないかと思いました。

アサダワタル

めちゃめちゃそれはありましたね。実際表現活動みたいなことで今回福祉の現場ということも捉えなおしてゆく際にあらゆる文脈をもう一回総動員させながら、そうやって見ることによってひょっとしたら障がいというものの見方も変えられる、そんなヒントもこの中には沢山あると思いました。三回にわたって文化の視点から福祉というものを捉えなおす、様々なお話をしていただきました。鈴木さん、改めてどうもありがとうございました。

鈴木謙介

ありがとうございました。

※1 ダイアログ・イン・ザ・ダーク

参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入り、暗闇のエキスパートであるアテンド(視覚障害者)のサポートのもと、中を探検し、様々なシーンを体験するソーシャルエンターテインメント。
http://www.dialoginthedark.com/

※2 『WEB社会のゆくえ』という本

鈴木謙介氏の著書『ウェブ社会のゆくえ―<多孔化>した現実のなかで』 (NHKブックス)のこと。

鈴木謙介社会学者・関西学院大学社会学部准教授

1976年福岡県生まれ。東京都立大学(現・首都大学)大学院社会科学研究科博士課程にて、理論社会学を専攻。現在は、関西学院大学社会学部准教授。著者に『カーニヴァル化する社会』(講談社)、『SQ “かかわり”の知能指数』(ディスカバートゥエンティワン)また、2013年8月に新著『ウェブ社会のゆくえ』をNHK出版より刊行。TBSラジオ「文化系トークラジオ Life」パーソナリティ。

鈴木謙介
パーソナリティ アサダワタル

1979年大阪生まれ。日常編集家。公私の狭間、異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、音楽、文章、プロジェクトを通じて創作・提案。2002 年、バンド 越後屋のドラマーとして、くるり主宰レーベル「NMR」より2枚のCDをリリース。その後、音楽を主体に各地でソロライブ、プロジェクト、ワークショップを展開しつつ、2013年、ドラムを担当するSjQ++にて、アルスエレクトロニカ準グランプリ受賞。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社、編著)『編集進化論 editするのは誰か』(フィルムアート社、共著)等。『ソトコト』や『マガジン航』等で連載。神戸女学院非常勤講師。

アサダワタル

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