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レポート・コラム
アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜

  • 青柳正規文化庁長官
  • 村木厚子厚生労働省事務次官
  • 嘉田由紀子滋賀県知事
  • コーディネーター:野沢和弘毎日新聞社論説委員
アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜

毎年、滋賀県の大津プリンスホテルで開催されている福祉にまつわる祭典「アメニティフォーラム18」の2日目に開催されたトークセッション。同時開催されていた展覧会「アール・ブリュット ランドスケープ」を体験した登壇者たちが織りなす、アール・ブリュットの魅力、そして文化と福祉、あるいは国家と地方自治体の政策を越えた新たな豊かさの提案。アール・ブリュットから展望する日本の社会が目指べき大きな方向性について語っていただきました。

野沢和弘

こんにちは。控え室で村木さんの講演を聞いていたら、あっという間に終わってしまい慌てて来たので息が切れているのですが、よろしくお願い致します 苦笑。この会場の向こう側でアール・ブリュットの展示会(「アール・ブリュット ランドスケープ」)が開かれていますが、今年はさらにパワーアップしており、想像もつかないような作品が並んでいてびっくりしました。ぜひみなさんお見逃しないようにと思います。

昨年の6月〜7月に厚労省と文化庁の共催で「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」が行われ、この中間とりまとめには極めて重要な内容があります。作品を収集してそれをどう保管していくのか、著作権をどうやって保護していくのか、展示の機会をどのように確保していくのか、ということが盛り込まれています。その延長線上に来年度にこのアール・ブリュット関連の予算案が計上されたという事で、今回は文化庁の長官と厚生労働省の事務次官が顔を合わせる画期的なセッションになりました。また、以前からこの分野を推進して来たのが滋賀県でありまして、滋賀県知事の嘉田さんも加わっていただきました。

最初に、青柳長官と村木次官から、懇談会から予算についての流れについてお話を聞かせて頂きたいのですが、まず青柳長官の方からよろしいでしょうか。

青柳正規

ちょうど去年のこの会に、衆議院参議院の先生方もいらしていて、アール・ブリュットに関するネットワークが非常に大切だということ、それを支援するために議員連盟を作っていただくということ、国も予算措置をすべきであるということを誓い合ってみんなでやろうということになりました。そこから去年の6、7月には「障害者の芸術活動への支援を推進するための懇談会」を厚労省と文化庁が共同で組織して、その座長を私がするということになりました。懇談会の構成員の方々から案をいただき、スタート台にうまくついてそこから出発するところまでを主にみんなで支援しよう、後は作家達の実力に任せようということを大枠として作っていきました。その途中で文化庁の長官になりましたので、その要請を聞く側になってしまったのですが、厚労省と一緒に考えてある程度の予算的な措置もできたのではないかと考えております。

野沢和弘

投げる側が受ける側に回ったということですね 笑。次に村木さん、厚労省としてこういうものに乗り出すのは画期的なことだと思うのですが。

村木厚子

今回の懇談会というのはすごく面白いカタチになったと思います。一つは文化庁と一緒にやれたのがすごく大きかったということ。二つ目は、予算に繋がったこと。前にチャレンジした時は報告書の作成までは出来たんですけど、翌年の予算編成にはつながらなかった。今回は小さいけど予算案に反映されるところまでいったのがすごく大きかったと思います。三つ目は野沢さんが言って下さったように、いままで厚労省のやっていたことから一歩踏み出したこと。どういうことかというと、障害者施策という意味で言うと、今まで厚労省は福祉とか医療をやっていました。これは“出来ない”ことをどう補うか、サポートするかということです。それが少し進歩して、地域で“当たり前”に暮らすというのを応援するというのが福祉の大事な課題になり、このあたりを一生懸命やって来た。障害者雇用というのも一生懸命やって来た。障害のある人達も一緒に働ける、仕事ができ、ちょっとサポートすれば障害のない人達と同じように働ける。当たり前に働くことを実現しようと。「当たり前に暮らす」「当たり前に働く」、そこまでは厚労省がやってきたことなんです。でも今度の話は違う。特に“秀でたもの”を持ってることをどうサポートするかということです。今まで厚生労働省行政の中にはアーティストを支援するという項目はなかった。初チャレンジです。普段スポーツを楽しむ、普段絵を描く、普段音楽を楽しむといった社会参加というレベルまではあったんですけど、特に秀でた素晴らしい芸術作品、アーティストの支援っていう発想は厚労省には無かった。初チャレンジなんで、どうやったらいいのか悩み中なんですが、持ってる強みとか、才能とかを拓いていくお手伝いを厚労省もやってみたいということで、こういった支援を来年度予算案に盛り込んでいるところです。初チャレンジなので皆さんに応援していただきたいと思います。

野沢和弘

まだ予算案という段階なので、これが実際通るかどうかは皆さんのバックアップがあってこそということですね。私、新聞社で論説委員をやっているのですが、経済界や経産省などを担当してきた論説委員からすると、社会保障というのはどこか“お荷物”のように見るのです。産業界が財を稼いできて、それを厚労省が取り崩している、というような目でばっかり見られるので、私はいつも「それは違う」と反論し腹も立っているのですけれど、この分野は全く逆ですよね。最近は日本企業が国際競争で苦戦しており、アール・ブリュットはヨーロッパで日本の芸術作品の評価を上げている。そうした爽快感を感じたりしているのです 笑。ようやく国レベルでこういう動きが出て来たのですけども、随分前から滋賀県は随分色んな取り組みをしてきたんですよね。壮大な構想がおありだということで嘉田知事にそのあたりを自慢して頂きたいと思います。

嘉田由紀子

今年で18回になりますが、毎年琵琶湖畔でアメニティーフォーラムを開いていただいております事を多くの皆さんに感謝申し上げたいと思います。私は実は滋賀県生まれではありません。中学三年生の時に比叡山延暦寺、琵琶湖に出会ってこんな場所に住んでみたいと思い、埼玉県から親兄弟と別れこの関西に定着して、そのころからずっと琵琶湖の美しさ、そしてこの周辺の神と仏の神々しさに魅入られてきました。また福祉の分野ですと昭和21年、今から67年前でしょうか。戦後まもない頃に糸賀一雄さんが、障害のある子どもや家庭の無い子ども達のためにということで近江学園を作られ、昭和22年の春にはすでに南郷窯をつくって粘土で作品を作るという、そういう機会を作ってらっしゃるんです。糸賀さんの当時の記録を見てみますと、障害のある人も無い人も粘土を前にして自らの芸術美術への「本然の心」を表すのが当たり前だと。「本然の心」という言い方をしているところが「あ、流石だな」と思いました。近江学園の活動の最初から、今で言う芸術活動、造形活動が取り入れられていて、それが子どもたちにとっては癒しであり、いわば治療の意味があるということを糸賀さんは、気づいておられた。その背景には池田太郎さんや田村一二さん達と近江学園の構想を、昭和10年代からずっと温めていたということがあるんですね。昭和21年の9月15日に満を持して、糸賀さんが当時の知事の部屋に行って20分の話で、「あなた達の企画は分かった。100万円でも200万円でも出そう」と知事が一言で決めたと記録にあります。トップリーダーの決断で進めたことが60年経った今に続いているということです。

お手元に「アール・ブリュット ガイドブック vol.3」という冊子があると思います。2ページを開いて頂きますと、アール・ブリュットと滋賀県の関係を紹介しております。私の県職員としての前半の仕事は琵琶湖博物館づくりでした。琵琶湖の周辺の固有種なり生き物なり水の環境を世界的に価値あるものだと見ていただく、そういう拠点を20年かけて作らせて頂きましたが、知事になってからも改めて、「滋賀って美しい所が沢山あるよね」と思います。あちこちから湧き水が湧いて、朝日が琵琶湖に映るのも美しいし、夕焼けも美しいし、全て目の前に当たり前の美がある。これをいわば「美の滋賀」としてですね、発信しています。千年前の十一面観音さん、これはずっと村の人が大事に祈りの場として守ってきました。そして100年前の小倉遊亀さんなり野口謙蔵さんなり、郷土から生まれた美、そして今目の前で生まれるアール・ブリュット。この1000年の美、100年の美、今生まれる美。これこそがいわば「美の滋賀」として徹底的にローカルであり、自分たちの足下を見られる美の世界ではないかという事で呼びかけさせて頂いております。

近代美術館がちょうど今年で30周年になるので30年一世代、次に進化をして新しい美術館では3つの時代を一つに束ねて表現をしたいと思っております。美術の専門家の方に言わせるとカテゴリーが違いすぎる、そんなカテゴリーが違うものをどうやって集めるのかと言われているんですけど、大地に根ざしているという意味では一つです。これは滋賀だけではなくてきっと日本中あらゆるところが、この大地に根ざして目の前の当たり前の美を発信する時に、ローカルかつグローバルなものが発信出来るのではないのかと思っております。

野沢和弘

当時の県知事さんが100万でも200万でもっていって施設を作れと。今の100万と違いますよね、単位が。

嘉田由紀子

今で言うと何億っていう単位だと思います。

野沢和弘

知事が一言でそれを采配できる、現代の知事からすると羨ましいですよね。

嘉田由紀子

当時は官選知事で国から送られて来ている、まさに中央支配で、都道府県は国の出先機関でした。昭和22年の4月から民選知事になり、私は民選知事7代目になります。二元代表制ということで議員も住民が直接投票、知事も直接投票で決まることは民主的であるので今の方がいいのかもしれません。時代に先駆けてかなり新しい事ができたというのは官選知事だったからかなと思います。

野沢和弘

「美の滋賀」発信推進室というのを設置された。仏教芸術から近代芸術からアール・ブリュットまで、カテゴリーが全く違う。当時の官選知事とは違ってあちこちからご意見があったりして大変だったのではないですか?

嘉田由紀子

大変悩みましたし今も悩んでいます。チャレンジを、こういった試みを評価していただけるのか、と。青柳長官が今の時代はみな心が優しくなっていて、あらゆるところに美の世界があるとおっしゃいました。その一つがアール・ブリュットであり、暮らしの中の美であるということで、時代の潮流を先取りしてるのかなと思いますが、ここは文化庁長官にぜひカテゴリー破りの挑戦に意味があるのかお聞きしたい。そして今年は近代美術館30周年で新しく新生美術館として生まれ変わるのが2018年〜2019年頃なので東京オリンピックの年あたり、関西での文化の発信を提案したいと思うんですけれども。ぜひ専門家の目でご批評頂けたらと思います。

野沢和弘

青柳長官に解説して頂きたいのですけれども、家族や支援者の立場である我々は、アール・ブリュットというと大事な仲間である障害者が生み出すものだと思って全面的に応援するんですけれども、障害者と全く関係ない芸術全体の中でアール・ブリュットの価値や意義とはどのようなものなのか。青柳長官が文化庁長官になられてから魲万里絵(すずきまりえ)さんの絵を掲示されたと聞きました。この第18回アメニティでも魲万里絵さんの作品は屏風のような絵として展示されています。見ていると吸い込まれるような迫力を感じたのですけれども、その辺りの魅力について芸術を支えてきた側から見て教えていただけますか?

青柳正規

色々な意味で今は、先進国が特に大きく変わりつつあります。それはいわゆる第一次産業、第二次産業が発展途上国の方に移行していって、先進国はものづくりにおいても、クオリティを大切にしながら付加価値も大切にしなければいけないという状況になりつつあるということです。これは発展途上国でもさらに発展途上のアフリカとかに移行していきます。そういう中で世界的に注目されているのは、それぞれの地域や都市がどのように文化を旗印にしていくかということで、ユネスコはそれを「クリエイティブシティ」、創造的都市というプロジェクトにしております。

金沢、神戸、名古屋、札幌などがクリエイティブシティに登録されているのですが、その中で非常に面白いのは、「ナントの勅令」で有名なフランスのナントという都市。ここは1950年代ぐらいまでは造船業で大変栄えていたのですが、日本の造船業の勢いにやられてしまって、1970年ぐらいからガタガタっと下り坂だったんですね。それをジャン=マルク・エローという今はフランスの首相になっている方がナント市の市長になった時から文化で街おこしをしようと、美術館を一生懸命つくったり、あるいは今は日本でもありますけど、「ラ・フォル・ジュルネ」、熱狂した日々という意味の、一週間のうちに音楽コンサートを250カ所ぐらいでやるという音楽の祭典をつくったりしました。それでぐーっと盛り上がって街自体が蘇りました。スペインのビルバオという都市も重工業の都市で例外なしに下り坂だったのですが、ニューヨークにあるグッゲンハイム美術館の分館をビルバオに作ったら年間の観光客が100万人近く増えて街が生き返っています。それも日本で言えば金沢21世紀美術館のようなものです。

これから特に先進国では、文化というものが街おこしや地域おこしに非常に重要になる。そういう意味で嘉田知事がおっしゃっていた、仏教と近現代美術とアール・ブリュットを三本柱にするのは、時期を得た政策ではないかと思います。それからナント市のジャン=マルク・エローという人は、20年間市長を務め、文化で街おこしに成功したんですね。その腕を買われて、今はフランスの首相になっているわけです。やはり良い首長がしっかりと政策を守っていくということが非常に重要になっていて、それを真似てグラスゴーやリバプール、ドイツ側のルール地方などが、文化を軸に地域おこしをやろうとしています。

滋賀がやろうとしているアール・ブリュットが何故素晴らしいのかというと、おそらくここには日本独特の豊かさのタイプがあると思うのです。どんなところでも豊かになれば億万長者が出たり、その逆に生活困窮者が出たりするのですが、日本の場合はとんでもない億万長者は税制上も作れないシステムになっている。とんでもない金持ちもいなければとんでもない貧乏人もいない社会。では豊かさは何かというと、心であり気持ちであると思います。そういう柔らかな優しい気持ちを色々な方面に浸透させる、世界でも例のないような豊かさを作る。私はその象徴がアール・ブリュットじゃないかと。つまり作品としては健常者が作るのと同じクオリティを持ちながら、なかなか自分自身を売り出すことが出来ない人たちを、優しくみんなでスタート台に立たせてあげる。そうさえすれば、一人一人のアール・ブリュットに関わる人の才能で、いくらでも表に打って出ることが出来るんじゃないかと。だからこそアール・ブリュットが非常にわれわれにとって、大切な分野なのではないかなと思います。

野沢和弘

とてもよくわかりました。今のお話には大変に刺激されます。私が思ったのは、これまで戦後の日本はすごく性能のいい工業製品を大量生産して繁栄してきたわけですよね。しかし、均質なものを大量生産するのにはどうしても障害のある方々は大量生産のベルトコンベアーに就けないということではじき出されて来た。しかし、付加価値の高い、文化のクオリティみたいなものを考えた時には、誰にも作れないもの、誰も発想し得ないものを生み出してくる彼らの存在はどうなのか。時代の価値観が変わると違う輝きを放つようになったのではないか、そんな気がするんですよね。

クリエイティブシティでしたか、日本は東京に何もかもが一極集中していますけれど、地方にいくと長い歴史の中で積み上げて来たいろんな文化がありますよね。近江八幡のボーダレス・アートミュージアムNO-MAとか村木さんの出身地である高知でも藁工ミュージアムができました。古い民家や蔵をうまく残しながら、そこでまたアール・ブリュットが融合している。これは都市の魅力みたいなものを考える時にすごく素晴らしいと改めて思うのですけれども、嘉田知事、今の長官の解説を聞いてどのようにお感じになられましたか?

嘉田由紀子

滋賀には都市型文化と農村型文化の両方が根付いております。都市型文化の象徴が、例えばびわ湖ホール。ナントで始まった「ラ・フォル・ジュルネ」をびわ湖ホールに誘致をして5年目になります。オペラハウスであったり或いは街であったり。街の中に近江八幡のボーダレス・アートミュージアムNO-MAがある。近江商人が丁寧に丁寧に造って守ってきた日本型民家を活用してNO-MAが運営されています。

一方で農村型文化というのは集落の中のお寺さん、神社。そして何より私は仏さんが大好きなのですが、地域の方が支え合い分かち合って守って来た、まさに心の優しさの文化が千年の仏さんをお守りして来たのかなと。滋賀は大河ドラマではいつも戦国の信長、秀吉の時代の荒々しい通り道だったんですけれども、その時でも集落の皆さんは仏さんを背中に背負って土の中に埋めたり川の中に隠したりして守って来た。ですから今も手が無かったりする身代わり地蔵さんというのをずっとお守りしてきてるんですね。これはある意味、高度経済成長期に忘れていた、優しさ分かち合いの文化なのかなと思っております。

アール・ブリュットもしかり。作品を作っている一人ずつを発見して支える。澤田真一さんの作品は粘土を準備する人、工房を準備する人、といった具合に分担してできあがるわけです。この支え合い分ち合いというのはこれからの日本社会のモデルになるのかなと思っています。都市型文化と農村型文化、それには琵琶湖に象徴される優しい水のように、それを私は「湧き水文化」と言っているんですけれども一人ずつ一つずつの集落に皆価値がある。それが発信される時、どこでも湧き水が湧いてくるように大地から美の世界が見えてくる。一方で近代工業社会は水道型社会。蛇口をひねったら誰かが豊かさを造ってくれる、トリクルダウン効果というんですけど水滴の末端にいて賃金をもらうと。もちろん水道が安全で楽です。けれども水道だけに頼った時に湧き水の価値、一人ずつが持っている本来の存在価値を忘れてしまったのではないかと思っております。

そういう意味で、湧き水社会の象徴としての「美の滋賀」ということを背景に持ちながら、ともかく一人ずつ一つずつの存在が光るような支え合い分かち合いを考えています。隣の部屋(アール・ブリュットの展覧会「アール・ブリュット ランドスケープ」)も素晴らしいですよね。日本だけではなく世界にこれだけ発信出来る方達、村木さんの言われる際立った能力を持っておられる人達がおられる。そうした方たちを偏見無しに先入観無しに支える。NO-MAを運営されている北岡賢剛さんの言葉ですけれども、それぞれの人が持つ「立つ瀬」を私たちは支えようと、その場を作ろうというのが、このアール・ブリュットの目指すところなのかなと思っています。

野沢和弘

今回の「アール・ブリュット ランドスケープ」展は台湾の作品が展示されていて、台湾もこんなに作品が発掘され、アール・ブリュットを支えている人々がいるのだと思うと感慨深いのですが、その地域や国にそれぞれの文化の有り様っていうのはあるのだと思いました。嘉田知事の「湧き水型社会」って良いですね。日本の江戸時代の町民も、お金持ちは居ないかもしれないけれども教養があって色んな事にクリエイティブな町民の方達の好奇心が、浮世絵とか歌舞伎などを作って支えてきたと言われることを考えた時に、日本の独特のアール・ブリュットのあり方みたいなものをまた再認識すべきではないかとも思うのですが。これまで障害者が何か描くにしても、それを我々はあまり芸術として見てこなかったのですよね。時代が変わり、芸術として見える人が出てくると同じ作品が全く違う輝きを放つようになる。さらに異文化・異分野のものがぶつかって融合していく。先ほどの村木さんのご講演(「司法と福祉のはざまで」)を聞いていると、それこそ司法にもずっと独特のカルチャーがありますよね。そこに全く違う村木さんという存在が一つ入ることによって、もちろん大変な目に会ったと思うんですけれども、大きく司法の分野を変える転機をもたらした。そこで、かなり無茶ぶりなのを承知でお尋ねするのですが、違う分野から見たアール・ブリュットの魅力というか障害者の魅力というか、そういう可能性を村木さんに語って頂きたいと思います。

村木厚子

相当無茶ぶりですね 笑。アール・ブリュットっていう言葉が使われるようになりましたよね。多分今日展示されている作品なんかも長い間病院や施設の中に埋もれていて、介護や看護してる人達はあの作品を沢山見てきたわけですね。でも我々は見る機会がなかった。在ったんだけど見えてなかったものが、名前がつくことによって発見をされて世の中に出てくる。名前がつくということは一方では危ない所もあって、レッテル貼りになることもあるんですけど。そういえば、最近、必ず女性次官って言われる 笑。そういう危ない側面もあるんですけど、一方で見えてなかったものが見えるという効果がある。アール・ブリュットという名前がつくことによって、ここにその絵を描く人達がいる、ものを作る人達がいるということが発見をされて、今まで見えてなかったものが、出てくる。まさにニューカマーですよね。ニューカマーがやってくるということはものすごく大きな刺激になるし、それで触発されて既存のものがまた揺らぐ、新しい波が来る。これってすごく大きいと思うんですね。

これはアートの分野だけじゃないと思うんです。福祉の分野にもそういうことが起こってほしいと思っています。例えば福祉の分野に、青柳先生のようにアートみたいな今まで福祉と関係なかった人が入ってくる。あるいは芸大の学生さんが入って来てくれるとかですね。これも福祉から近い分野ですけど医療の人とふれあうとまた福祉ってすごく変わるとか。企業の人が入ってくるとか。そうやって色んなものが入りこんできて、そこで新しいものが入ってくると摩擦があって、摩擦があると熱が出て熱が上がって行って暖まっていって、また新しいものが産まれる。そういうことができたらすごくいいなと思ってます。今回のアートの話はそれの引き金になると思うし、オリンピック・パラリンピックがあるのでスポーツもこれの引き金になると思うし、すごく新しい動きがくる良いチャンスがきてるかなと思います。

最初の無茶ぶりに答える意味で言えば、そこに司法も関わる。これすごい大事でおまわりさん達って大事なんですよね、福祉の現場から見ても。そういう人達とのコラボが始まる。こういう風にいっぱい異業種で関わりが始まったらすごく面白くなると思います。

野沢和弘

ありがとうございました。無茶ぶりに答えて頂いて。実は私には重度の自閉症の子がいてですね。もう27歳になるんですけれどもで。27年間抱えてきていていっぱい彼の中には叫びだとかつぶやきとかがあるのは分かるのですが、喋ってくれないので、それが分かんないんですね。よく知的障害を持った方について、3歳程度の知能とかそういう年齢を尺度として語られる。これはこれでしょうがないんですけど、どうも違うんじゃないかと思えてくるのです。生きてきた時間の長さ、この質量っていうのはやっぱりそれだけの体験があり、出会いがあったりして、自分の中に色んなものをそれなりに彼らは持っていると思うのですね。アール・ブリュットを見ると、魂の叫びとか心の叫びって、本当にそういう言葉でしか表現のしようがないものを我々感じるのですが、私は「あ、こういうことだったのか!」という感じがしました。彼らの中にも言葉でコミュニケーションが出来ない方も、黙々とものを描いたり作ったりすることによって、生きてきた中で色んな体験して心が動いて来たものが表現されて、そうしたものが芸術作品という形になって表れる。そこで青柳長官に教えて頂きたいのですが、どこの国もそういう要素はあると思うんですけど、作品として日本のアール・ブリュットに独特な特徴は何かあるのでしょうか。あるとしたらどんなところにお感じになられるのか教えて頂きたいと思います。

青柳正規

アール・ブリュットを専門としてすべてを見ているわけではないので、独りよがりのところはあるかもしれないのですけれども、日本の美術は一般的に見てクオリティが高いんですね。つまり殴り書きのようにして立体感を出すというよりも丁寧に丁寧に描いていく、彫刻を作っていくという方が得意な表現法なんです。今日もずっと日本の方々のアール・ブリュットを見せていただいたのですけれども、おそらく日本のアール・ブリュットのクオリティは非常に高いのではないかと思います。生活空間がこれだけ安全で清潔であるというのは世界でもなかなかないんですね。しかもヨーロッパのように金襴豪華な感じというよりもすっきりした空間を尊ぶというような生活慣習を持っているので、そういう環境が自然にアール・ブリュットの作家の方々にも影響してるのではないか。それが多分、世界中のアール・ブリュットの作品を展示してみるとはっきりしてくるのではないかなと思います。

野沢和弘

今盛んに日本のアール・ブリュットを発掘するチームがアジアの諸国を歩いているようなので、台湾以外もまた色んなものが出てくるのではないかと楽しみにしています。先ほどオリンピックの話が出ましたが、2020年東京オリンピックですよね。この調子でいろいろやっていくともっとすごい作品が国内や色んな国からも出てくると思いますが、これはただ単にスポーツというだけではなく、ここにアール・ブリュットを融合させて世界の人達をあっと言わせたい。そんなことを考えたりするのですが、これはどんなもんでしょう。パラリンピックは文科省に所管が移ったのでしたっけ?

村木厚子

そうですね。これまで障害者の方のスポーツは厚労省、それから障害のない人のスポーツは文科省というふうに分かれていたんですが、パラリンピックは文科省にお願いする。それはパラリンピックのレベルがすごく高くなったのでスポーツのことを専門に出来る所にお願いするということなんですね。そして厚労省はそこの裾野を広げることをお手伝いしていくことになってます。ロンドンのオリンピック、パラリンピックの報道を見て本当に羨ましかったですよね。パラリンピックがスポーツとしてきちんと報道されて、かつかっこよかったですよね。あれを見ていて本当に羨ましいと思っていたら、今度は東京でオリンピック・パラリンピックをやれる。もっとスポーツとして見習って障害がある人の大会、障害がない人の大会が融合して、日本がこの問題についてきちんと対応出来るようにしたい。文化の水準がそこまできたっていうのを見せたいなという思いがすごくあります。

そして、今の野沢さんのふりは罠でですね。「オリンピック・パラリンピックはあるけれどもそこでアートはやらないのか」という罠なんですね 笑。ここに今二人役所の人間がいて来年の予算案までを一生懸命検討して国会を通さないといけないと思っている時に「2020年お前ら予算取らないのか」という罠なんですよ。昨日の夜は飲んでたんでもうちょっと威勢のいいことが言えたんですが…、何か良いチャンスだよな、何か出来ないかなというね。オリンピック・パラリンピックというのは実はスポーツだけじゃなくて世界中から集って文化の違いをもちゃんと楽しむとかですね、健康づくりとか裾野のことをやるとか、オリンピックっていうのはそういうことが全部、理念の中に入っているらしいんですね。オリンピック・パラリンピックを成功させるためには広い視野でこの大会を受け止めないといけない。色んな分野で開催国である東京、日本全体が豊かなオリンピック・パラリンピックを実現するというのは凄く大事なこと、まさしくおもてなしの心をどうやって表現するかですね。その中にアートも含まれると思っています。

野沢和弘

どうも付き合いが長くなってくると、こちらの隠された意図をすぐに嗅ぎ取られてしまうというようで 笑。さすが修羅場を潜り抜けてきた村木さんには勝てないという感じがするわけですが、嘉田知事はどうでしょうか。

嘉田由紀子

去年の政府主催全国知事会議の時に、―首相官邸で一年に一回あるんですけど―、安倍総理とそれから下村文部科学大臣が出て下さって、東京のオリンピック・パラリンピックは東京だけではない、日本全体が力を持つためにスポーツと文化を並列でやると言って頂いた。この文化のところは関西でうけようということで今、関西広域連合ではかなり盛り上がっています。全国で初めて府県が一緒になった広域自治体、「関西広域連合」は、2府5県で京都、大阪、兵庫、滋賀、鳥取、徳島、和歌山が入っておりましてね、そこに政令市が4つ入っております。政令市と府県で関西がまとまって、東京一極じゃなくて二極構造を作ろうと。東京は都が中心の“こしあん”ですけど、関西は“粒あん”で。京都滋賀も一塊でなく滋賀は滋賀でちゃんと主張するよと。“粒あん”の関西で個性豊かな文化、社会、経済を元気づけようというのが関西広域連合でちょうど丸3年になります。その中で、文化は関西に任せてくれということで、皆盛り上がっておりますので、ぜひ来年から準備頂けるとありがたいですが。かつて河合隼雄文化庁長官時代に関西分室をつくりまして、この3月で危うく閉鎖されそうになったんですけれども、関西広域連合でこれはちゃんと守ってくれと言っております。青柳長官の部屋も関西広域連合でちゃんと準備させて頂いて、関西の“粒あん”のように個性のある京都、滋賀、和歌山も含めてアピールし、日本の文化とはどういうものか、優しさの文化にせよおもてなしの文化にせよ、ちゃんとそれを表現させて頂くプロジェクトを作りたいと思っております。

その中の一つに滋賀県としてはアール・ブリュットを入れさせていただければという思いです。私個人の大風呂敷を広げさせて頂きますと、例えばこのプリンスホテルを全部をぶち抜きにしてアール・ブリュット展をできるといいなとか、あるいは比叡山の延暦寺から竹生島からそれぞれの場所に展示をして頂いて近江全体でアール・ブリュットのフィールドミュージアムのようにしてもいいなとか、色々企画は湧いてきます。お金以上にエネルギーだと思いますので、ぜひ文化庁長官の応援を、厚労省の応援をお願いしたいと思います。

野沢和弘

知らない所で色々進んでいるということが分かりました。文化庁長官の部屋も作るなんてこともおっしゃっているわけですが。

嘉田由紀子

既に分室があります。

青柳正規

京都府庁があって、京都所司代があったところです。大河ドラマで出て来た、会津藩が駐屯していた所に京都府庁があって、そこになかなか良い部屋をいただいています。河合隼雄先生が文化庁長官だった時に関西分室を作って、「関西文化元気圏」を作ろうということで産まれたもので、今も活動しています。ですからぜひぜひそれを活用したいのと、オリンピックに関してはですね、古代オリンピックの場合大体7日〜10日間の開催でその前後を休戦状態にしたんですね。ギリシャで都市国家同士がどんなに戦争をしていてもオリンピックの期間だけは全部で3週間〜4週間ぐらいを休戦状態に。これを「エケケイリア」と言いますけれども、そういうスポーツの祭典の時に進行中の戦争までも一時ストップするという精神が非常に重要であると思います。それが一つ。それともう一つは、古代オリンピックの場合は詩人たちや音楽家たちが競争をして賞をもらっていました。これは第二次世界大戦前までは近代オリンピックでもやっていて、一時は金メダル銀メダル銅メダルを出していました。ただ文化の場合にはそういう優劣をつけるのがおかしいということで参加だけになりました。その精神をこの前のロンドンオリンピックは忠実に守って、素晴らしい文化の催しごとをたくさんやりました。その中には障害者が文化活動をする「アンリミテッド」というセクションを設けたり、それから世界中のシェイクスピア劇をそれぞれの国の言葉でやるということで三十何カ国かの言葉でシェイクスピア劇が行われたりしました。それから最後に一つ、オリンピックの時に「リオオキュペーション」といって、次の開催地であるブラジルの人たちがロンドンにきて、オリンピック中に自分の国でやる時にはこういう文化催事をやりますと、もう予告しています。ですから我々もリオの時には「東京オキュペーション」をやらなくてはいけないわけですね。だから今から関西広域連合から色々アイデアを出していただいて、ぜひリオに持っていっていただきたいと思います。

嘉田由紀子

ぜひ関西広域連合の会議で提案をさせて頂きます。

野沢和弘

なんかすごいですね。一気に視界が開けてくるような感じなんですけれども、先ほど嘉田知事、すごいことおっしゃっていましたよね? プリンスホテルを全部ぶち抜いてアール・ブリュットをやるとか、比叡山まで使ってアール・ブリュット展をやるとか。

嘉田由紀子

文化というのがどうしても都市中心になりがちなんですが、私は都市を支える農村があってこその文化だと思っております。鄙(ひな)の文化と都市の文化ですね。滋賀県はずっと京都の陰に隠れて悲哀を舐めてきてるんです。「そうだ 京都、行こう。比叡山延暦寺」。いえいえ、延暦寺は大津市にあります。開いた伝教大師は琵琶湖畔で生まれ育って瀬田の国分寺で修行してあそこに薬師如来をお納めした。ですから比叡山の元々は琵琶湖と伝教大師なんだと。私たちはもう少し自信を持てばいいんです、鄙の文化に。それに、東京ですと関東全体がみんな東京中心に向いているんですけど、関西はひとつずつが主張するんですね。一つずつの主張が“粒あん”のように個性を持ちながら全体としての多様性を持つと。ぜひ文化庁長官の分室を大きくして頂いて、関西には何よりも創作をする皆さんのオリジナルなものがありますので、文化プロジェクトをやらせて頂きたいと思います。

野沢和弘

“粒あん”っていうのはなんだろうと思って突っ込みようが無かったのですけれども、一人一人が主張するということなんですね。

嘉田由紀子

そうです。京都、大阪、兵庫は今までは三都連合と言って、三都しかなくて逢坂山から向こうはどっか知らない世界だったんです。そこで関西広域連合の枠組みに積極的に入っていったというのが、私どもの滋賀県の考え方。ですからそれぞれ“粒”。滋賀も関西全体と連携しながら、一つの粒として個性を主張していきたい。例えば文化財は滋賀県の場合に全国で4番目です。東京を除くと3番目ですから素晴らしくあるんですけど、県民の皆さんはうちのムラの仏さんやから敢えてよそさんに見てもらうものではないと、私たちが大事に信仰してきたものだから逆に見てもらうことに躊躇するというようなところで大事に大事に守っている。大変奥ゆかしくてそこがいいところなんですが、一方では、これからは湧き水型文化の中で発信していくことも大事だと思っています。

野沢和弘

村木さん、関東も“こしあん”文化で対抗していかなければならないですね。

嘉田由紀子

ちなみに私は埼玉生まれなんですけど、“埼玉都民”はなかなか東京に対抗出来ない。滋賀は京都や大阪にも存在を主張しようと思っています。

村木厚子

“粒あん”って良い表現ですよね。噛んでるとそれぞれの粒を感じるというのはいい感じですよね 笑。

嘉田由紀子

ありがとうございます。湧き水文化と粒あん文化です 笑。

野沢和弘

東京オリンピック2020年。リオの時に「東京オキュペーション」というのをやらなきゃいけない。あまりにもが時間無いですよね。急ピッチで色々やって行かなければならないということなのですが、優れた才能を伸ばして行くとともに裾野を広げていく。これとっても大事だなと思っておりまして、まだまだ、地域によってはそういうことに目を向けてないところはいっぱいあると思うんですね。今回のセッションのサブテーマになっている「障害者が拓く新しい芸術の未来」、先ほど嘉田知事には壮大な構想をご披露して頂きましたけれども、この障害者が開く新しい芸術の未来ということについてそれぞれのお感じになっていることを、構想段階でもちろん結構なんですけれども自由にコメントを頂いてこのセッションを締めようと思っております。嘉田知事からよろしいでしょうか。

嘉田由紀子

よくスポーツと文化というのは何となく相いれないものと思われがちなんですけれど、根っこを見ると共通してますね。例えばヴェネチア・ビエンナーレに招待された澤田真一さんの作る場面は本当に熱中しているんです。周りが何と言おうと関係ない、夢中体験、熱中体験。滋賀県内には数十カ所に、作業所、工房などがありますが、その工房を訪問すると、例えば「目目鼻口、目目鼻口」と言いながら焼き物を作っている吉川さんという人がいたり、一心不乱に針を動かしている人がいたり。その熱中体験を見ていると、実はスポーツをやる時の熱中体験、少しでも自分の身体一つで表現をして記録を伸ばそうという体験と共通なんじゃないかなと。それは生まれた時からみんな一人ずつ持っている。成長するにつれてそれがどんどん削ぎ落とされてしまう。私も5人の孫がいますけど、1歳2歳のころって何も見ずにのめりこめますよね。こののめり込む熱中体験を自由に出来るのが、スポーツと文化ではないかと思っております。もっともっと一人ずつが輝く日本にしていくために、ぜひこれからの子育てとか教育の分野では、一人ずつの存在を大事にしよう、分かち合い支え合おうということを皆さんといっしょに考えていきたいと思います。その一つの表現がアール・ブリュットだということで、今まで発見されなかったことを発見していただきたいですし、創造力とイマジネーションをより一層深められるように、皆さんでもっともっとアール・ブリュットを育てていけたらなと思っております。滋賀県としても、支えさせて頂きたいと思っております。本日はどうもありがとうございました。

村木厚子

障害をもっている人のアートっていう話を最初に聞いた時に、私はこの分野は何の知見もなかったので凄く素朴に、「障害を持った人達の中でそういう芸術について優れた才能を持った人は沢山居るんでしょうか?」っていう風に聞いたんですね。それで返ってきた答えが「少なくとも障害のない人達の中に芸術家が生まれてくる、それと同じぐらいの比率ではいるんじゃないですか」って相手の人が答えたんですね。その時に「じゃあなんで今いないんだろう、そうか、チャンスが無いんだ、見えないんだ、発見されていないんだ」と思いまして。そのチャンスのきっかけを作れたらいいと思いました。そうしているうちにこういうアール・ブリュットっていう大きな流れが出て来た。これ見てるとあの時に「同じぐらいの比率でいるんじゃないですか」と言われたけど、「分かんないよな、まだ発見されてないんだから」「もしかしたら障害がない人と同じようじゃなくて、障害があるが故にもっといっぱいいるかもしれない」とも思う。そういう人達のそういうアートが、アートの世界全体に何か面白い刺激を与えて、何かが起こったら凄く面白いと思っているんですね。

このことはすごく色んな事に発展するんじゃないかという期待を持ってる。一番大きいのは、今唱えている呪文に命を吹き込んでくれないかなと思っているということ。呪文というのは何かというと、「誰もが個性と人格を相互に尊重しあい共生できる社会」という呪文です。嫌って言うぐらいこの呪文が出て来て、私もしょっちゅうこの呪文を唱えるんですけど、何となくまだここには命が吹き込まれてない気がする。消極的には障害者差別解消法ができて、マイナスが無いという意味での共生社会の一つの基盤が出来た。でも差別されないというマイナスだけではなくて、自分らしくあるとか、自分の持っている力をうまく開花させられるとか、違う力を持っている人間がお互いに助け合えるとか、この呪文に対してそういった具体的なイメージを我々がちゃんと持てたら、このセッションで何回も出て来た言葉ですけど、優しくて強くて豊かな社会が出来るのかなと思っています。そういう意味でこれって優しくて強くて豊かな社会への一つの大きな階段になるんじゃないかなと思っています。

青柳正規

今、環境とかエコに関する国際会議があると必ず出てくる言葉は、「レジリエント」という英語です。このレジリエントというのは、しなやかさとか反発力とか、やわらかな反発を意味する言葉ですけれども、よく考えてみると、日本社会全体がレジリエントなんですね。昔から色々な災害があったりして、それに対して復興復旧していく力を内部的にも持っているという点で、レジリエントな社会というものを日本は昔からつくっていた。このレジリエントな社会の中に、我々は幸いなことに経済的に恵まれた地域になってきて、ある程度の豊かさを持ってきている。

この豊かさは、実は「リオ20」という2012年の会議において、世界で最も信用されている経済学者で、ケンブリッジ大学のパーサ・ダスグプタという先生が中心になって、世界の包括的な富がどこにあるかという報告を出しました。ヒューマンキャピタルとナチュラルキャピタルとフィジカルキャピタルというのに分けたりして。もちろん日本は、天然資源はないのでそれは0に近いのですが、ヒューマンキャピタル、つまり教育を受けて職業的なスキルをもっていると意味では80%ぐらい、そういうのを全部計算するとアメリカが111兆ドル、それから日本の全体の富は56兆ドルだったかな。世界で2位なんです。ところがこれを人口で割ると、一人当たりの豊かさというのは日本が世界でトップなんです。そのほとんどは教育と職業的なスキルを持っているという意味でそうなっているのですけれども、そういうものを持っているからこそ、倫理観や道徳感に繋がっているのです。

そしてアール・ブリュットは、この当然のように存在する我々の豊かさや素晴らしい社会を証明してくれる鍵なのではないかと思っておりますので、ぜひ皆さんアール・ブリュットを身近に感じて、身近に見てそして楽しんでいただきたいと思います。

野沢和弘

どうもありがとうございました。一時間ではとても語り尽くせない、もっともっと聞きたいことがあるのですが、どうでしょう皆さん、この夢のような顔合わせのセッション。私、新しいことをいっぱい教えて頂いた気がするんですね。我々身近な所にいっぱい宝物を持っている。それになかなか気がつかない。アール・ブリュットというのは芸術というジャンルを超えて社会を大きく変えて行く潮流というか思想みたいなものだと感じることがあって、この分野から発信して行けるということを大変誇りに思っております。そして今日はそれをずっと推進して来られた嘉田知事や村木次官や青柳長官の話を聞いて、ますますそういう思いを深めることが出来たのではないかと思います。今日は皆さんご清聴ありがとうございました。

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