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村木厚子『アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜』(単独インタビュー)

  • 村木厚子厚生労働省事務次官
村木厚子・青柳正規・嘉田由紀子・野沢和弘『アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜』(1/3)

アール・ブリュット(生の芸術)という表現が、いま福祉や美術など様々な領域で注目されています。観る人に驚きと感動を与える作品群は、とりわけ障害のある人の存在を新たな可能性とともに見つめ直すきっかけを与えています。2月8日に大津プリンスホテルにて開催されたシンポジウム「アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜」では、福祉と美術の政策トップがアール・ブリュットの魅力を語り、そして先進的な取り組みを行ってきた滋賀県の知事も交えて、より幅広い視点で来たるべき豊かな社会への展望を語り合いました。今回の放送では、村木厚子 厚生労働省事務次官と青柳正規 文化庁長官への単独インタビュー、および、シンポジウムのダイジェストをお届けします。

※なお、本シンポジウムのレポートはこちら(レポート・コラム「アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜」)をご覧ください。

インタビューに際しての前置き

アサダワタル

今回はスタジオ収録ではなく、大津プリンスホテルにて開催されている福祉にまつわる祭典「アメニティフォーラム18」の会場にてインタビュー収録をさせて頂いております。

どういった内容のインタビューかといいますと、まずこのインタビューの前に、この「アメニティーフォーラム18」にて開催されているトークセッションがありまして、「アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜」こういったタイトルで、パネリストに厚生労働省事務次官の村木厚子さん、そして文化庁長官の青柳正規さん、滋賀県知事の嘉田由紀子さん、コーディネーターには毎日新聞社論説委員の野沢和弘さんが出られ、そしてこの内容がまさに、今回、いわゆる美術教育を受けていない方々が、自分のありのままの表現を絵画や彫刻などで表す「アール・ブリュット」と呼ばれている、そういう美術作品ですね。この事について、福祉サイドから、文化サイドから色んな角度で語って行こうというような鼎談内容があったわけです。そしてこの鼎談に登壇されている方々が、皆さんアール・ブリュットの展覧会を見て、アール・ブリュットの魅力、そして文化と福祉、あるいは皆さんもちろん政治にも関わってらっしゃる方々なので、こういった事を応援する政策をどういう風に実現させていくかという、そういったかなり大きなテーマのシンポジウムが開かれたわけなんですね。そして、その直後が現在でして、改めて村木厚子さんに独自にインタビューをする事ができました。

村木厚子さんに「アール・ブリュット アート 日本」というテーマで障害福祉の中で芸術活動を行っていく事の意味、また一つの政策として福祉分野と文化分野がどういった具体的なコラボレーションを今後やって行けるか。10分程度のインタビューでまとめさせて頂いてますのでそちらの方を聞いて頂いたらと思います。それでは、どうぞお聞き下さい。

村木厚子さん 単独インタビュー

アサダワタル

村木さん、どうもありがとうございました。お疲れさまです。それではよろしくお願いします。本日こちらの会場でも開催されています展覧会「アール・ブリュット ランドスケープ」、ご覧頂いていかがだったでしょうか。率直な感想をお聞かせいただきたいと思います。

村木厚子

今回の展覧会は本当に大きな規模で作品も沢山あったんですけど、私はアートの専門家では無いので、批評みたいなことはできないんですけど、本当に無防備に見る事が出来る、構えずに見る事ができる、そういう意味で物凄く魅力的な展覧会になってたなぁと思いましたね。

アサダワタル

先ほどの講演の中で、障害のある方の造形活動みたいなものが、今、徐々に徐々に発見をされて、そしてさらに今後よりそういった造形活動が生まれるきっかけを色んな形で作っていくという事の必要性が、例えば福祉の制度であったりとか、あるいは文化の制度とか、色んな所で語られたりしていくと思うんですが、改めてこの番組の背景にもある、糸賀一雄さんという存在についてお聞きしたいです。今年、生誕100周年を迎える、障害者福祉の父と呼ばれる方ですが、その方が残した「この子らを世の光に」というメッセージ、これは随分昔に発せられたメッセージだと思うんですが、今実際、現代社会にどういう風に繋がっていってるのかなぁみたいな事が、この番組を通じてずっと考えてきたテーマでありました。村木さんから見てもこの糸賀一雄先生のお話がどういった風に響いてらっしゃるのか、この事について少しお聞きできたらと思います。

村木厚子

例えば、知的な障害のある人達の真実な生き方が世の光になるという言葉がありますよね。それを助ける我々がかえって人間の生命の真実に目覚め救われるという、これはすごく我々に大事な問いかけをしていると思うんですね。特に福祉に関わる人間にとっては非常に大事な問いかけで、真実の発露する環境を作れているかということですよね。我々の安易な思い込みとか我々支援者自身の限界でその人達の本当の真実の発露とか才能の発露を妨げていないかというのは、我々は常に問いかけないといけないと思うんですね。福祉の今までの世界でもやっぱり支援者の限界が当事者の限界を生み出してたということ、沢山ある。もっと出来る事がある、もっと働ける。色んな才能がある。それを発見出来ずにいたというのは沢山あったと思うんです。今回のアール・ブリュットっていうことが注目されたというのは、言葉では色んな事を表現出来ない人達が心の中に色んな豊かな感情とか豊かな才能を秘めていて、言葉以外の形で、それはアートであったりあるいはダンスであったりスポーツでも良いかもしれないですけど、そういうものを通じてそれを開花をさせる事ができる、外に生み出す事ができるという事実を目に見える形で提示をしてくれています。この事は我々にとって凄く意味が大きい、沢山の事を気づかせてくれると思います。

アサダワタル

見えてこなかった才能であるとか、そういったものが実際に見えてくるようになる。それは一つアール・ブリュットという言葉であったりとか色んな形で表現をされて我々に伝わるところがあると思います。先ほどシンポジウムでおっしゃっていたのは「ニューカマーが福祉の分野にも」という事、私もそこはまさに真実を発露していく上での福祉の分野の中におけるニューカマーの存在は重要だと思っています。そして今後様々な恊働、コラボレーションというものが福祉の分野でも新しく起こっていくという事がありえるのかもしれないんですが、福祉とこれまでは一見関係がなかったような方々がどういうふうに福祉の領域の中で新たな関係をとり結んでいくかということについて、村木さんがお考えになっているような理想をお聞かせいただけませんか。

村木厚子

結局我々がサポートしなければいけないのは、生まれてから亡くなるまでの人生そのものですよね。そうするともちろん普通に生活する部分とか、あるいは働くとか基本的な部分はありますけど、それだけじゃなくて後は教育ですよね。こういう今まで基本的だったと思われていた部分だけではなくて、今回のアートだったりあるいは私が言うとジョークにならないですけど、例えば警察のお世話になるとかという……

アサダワタル

先ほども司法と福祉のはざまっていうのは分野を超えてるんじゃないかっていう話もありましたが。

村木厚子

暮らして行くというためにはありとあらゆる事に関わりが出てくるわけですよね。そうすると社会を構成する色んな人が当事者の方を中心にして車座になれるような関係っていうのが一番理想かなと思っています。特に福祉はどうしても囲い込みがちになる。自己完結が出来てしまうので、なかなか外の人が入ってこれない事があるんですけど、やっぱり当事者の方の生活を豊かにするためには例えば福祉の作業所に芸大の学生さんが入ってくるとか、外でのトラブルの仕方についておまわりさん達が教えてくれるとか色んな事があっていいと思うんですよ。今日、シンポジウムの中で嘉田知事が「粒あん文化」と言っていましたけど、社会の中にいる色んな人が完全に混じり合うんではなくそれぞれが自己主張しながらでも、上手に「粒あん」という一つの形になってる。あれ、すごい良い表現だなと思ったんですけど。

アサダワタル

確かになるほどと思いました。

村木厚子

なるほどですよね。私は粒あんのあんぱん大好きなんで余計そうかもしれませんけど、本当にそういう風になったら凄く面白いなと思いますね。

アサダワタル

最後の質問になります。今まさしく本日滋賀県の嘉田知事と青柳文化庁長官と野沢さんも含めてお話して頂きました。アール・ブリュットと連携して行くなかで、青柳文化庁長官のお話の中にもまちとの関わりかた、まちづくりであるとか、地域コミュニティに関すること、あるいは福祉の中でずっと言われ続けている共生社会という考え方などがいくつも提示されてました。そこで、今後アール・ブリュットや、文化活動と福祉の活動が融合していく上で、福祉という領域が今後、どういう風に地域での共生社会の実現に向けて開かれていくべきかのか、ご意見をいただけたらと思います。いかがでしょうか。

村木厚子

障害という分野って今までメインになってたのは福祉という概念ですよね。福祉って何かというと弱い所を補うという発想がやっぱりかなり強いんですね。でもこれからの福祉はそれだけじゃなくて、強い所を伸ばす、好きな事を伸ばすという所が、だんだん出てくると思う。それが出来るようになると「障害がある人は助けられる人/そうじゃない人は助ける人」という関係が変わってくると思うんです。助けられるだけの存在になってしまったらやっぱり尊厳を持って生きられないというか、元気が出ないですよね。そういう意味で言うと、「ここはハンディがあるけど、ここは強いぞ。ここは大好きだから得意だぞ」ということがお互いにあるという。男性でも女性でも、お年寄りでも子どもでも障害があっても無くても、お互い様という、これは共生社会の一番大事なコンセプトになってるんですね。支える事も支えられる事も両方大事でそれは相対的なもの、そういう事を考えていく大事なきっかけ、起爆剤になる可能性を秘めているのがアール・ブリュットなのかなと思っています。

アサダワタル

ありがとうございます。お忙しい中、本日は村木厚子厚生労働省事務次官にお越し頂きました。どうもありがとうございました。

村木厚子

ありがとうございました。

パーソナリティ アサダワタル

1979年大阪生まれ。日常編集家。公私の狭間、異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、音楽、文章、プロジェクトを通じて創作・提案。2002 年、バンド 越後屋のドラマーとして、くるり主宰レーベル「NMR」より2枚のCDをリリース。その後、音楽を主体に各地でソロライブ、プロジェクト、ワークショップを展開しつつ、2013年、ドラムを担当するSjQ++にて、アルスエレクトロニカ準グランプリ受賞。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社、編著)『編集進化論 editするのは誰か』(フィルムアート社、共著)等。『ソトコト』や『マガジン航』等で連載。神戸女学院非常勤講師。

アサダワタル

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