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青柳正規『アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜』(単独インタビュー)

  • 青柳正規文化庁長官
青柳正規『アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜』(単独インタビュー)

アール・ブリュット(生の芸術)という表現が、いま福祉や美術など様々な領域で注目されています。観る人に驚きと感動を与える作品群は、とりわけ障害のある人の存在を新たな可能性とともに見つめ直すきっかけを与えています。2月8日に大津プリンスホテルにて開催されたシンポジウム「アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜」では、福祉と美術の政策トップがアール・ブリュットの魅力を語り、そして先進的な取り組みを行ってきた滋賀県の知事も交えて、より幅広い視点で来たるべき豊かな社会への展望を語り合いました。今回の放送では、村木厚子 厚生労働省事務次官と青柳正規 文化庁長官への単独インタビュー、および、シンポジウムのダイジェストをお届けします。

※なお、本シンポジウムのレポートはこちら(レポート・コラム「アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜」)をご覧ください。

インタビューに際しての前置き

アサダワタル

今回も前回に引き続きスタジオ収録ではなく、シンポジウムの会場にてインタビュー収録をさせていただいております。

どういった内容のインタビューかといいますと、まずこのインタビューの前に、この「アメニティーフォーラム18」にて開催されているトークセッションがありまして、「アール・ブリュット アート 日本 〜障害者が拓く新しい芸術の未来〜」こういったタイトルで、パネリストに厚生労働省事務次官の村木厚子さん、そして文化庁長官の青柳正規さん、滋賀県知事の嘉田由紀子さん、コーディネーターには毎日新聞社論説委員の野沢和弘さんが出られ、そしてこの内容がまさに、今回、いわゆる美術教育を受けていない方々が、自分のありのままの表現を絵画や彫刻などで表す「アール・ブリュット」と呼ばれている、そういう美術作品ですね。この事について、福祉サイドから、文化サイドから色んな角度で語って行こうというような鼎談内容があったわけです。そしてこの鼎談に登壇されている方々が、皆さんアール・ブリュットの展覧会を見て、アール・ブリュットの魅力、そして文化と福祉、あるいは皆さんもちろん政治にも関わってらっしゃる方々なので、こういった事を応援する政策をどういう風に実現させていくかという、そういったかなり大きなテーマのシンポジウムが開かれたわけなんですね。そして、その直後が現在でして、改めて文化庁長官の青柳正規さんに独自に取材をすることができました。

青柳さんといえば、国立美術館の様々な活動を運営され、そして改めてアール・ブリュットというテーマでも新しい視点で色んな発言をされています。例えばアール・ブリュットというものと既存のアートというものと地域というものがどういう風に今後繋がって行くのか、そういった視点も踏まえながら、青柳正規さんに改めてアール・ブリュットから見える日本の未来、福祉と文化の融合点についてしてお話いただきました。それではどうぞお聞き下さい。

青柳正規さん 単独インタビュー

アサダワタル

青柳長官、シンポジウムお疲れさまでした。まず本日開催されている展覧会「アール・ブリュット ランドスケープ」をご覧になられて率直な感想をお聞かせ願いますでしょうか。

青柳正規

去年までここで開催されていた展覧会よりも会場が倍ぐらいに広がって、したがって作品数も多いし、そしてかなり大作も並べられてますよね。いよいよアール・ブリュットの底力というか、バラエティの多彩さとか。そういう事が良く分かったのでとても良い展覧会だなと感心しました。

アサダワタル

ありがとうございます。今回は先ほどシンポジウムでもお話しされていましたが、まさに台湾と日本のコラボレーション、福祉と美術というだけじゃなく国際交流という観点も含めて、新たな作品の発見があったと思うんですが、改めて海外の作品と比べていく中で、何か日本の作風として気づかれた点とか、あるいは作風といってももちろん日本の作品にも色々あると思うんですけれども、青柳長官の中でとりわけお感じになった事をお話しして頂けたら。

青柳正規

台湾からの作品がそれほど多くないのと、それ以外の地域のものが無いので、僕のこれから言う事が当たってるかどうか分かりませんけれども、少なくとも会場で得た印象は、日本の社会というのが非常に清潔で衛生的な社会ですっきりしているんですね。これは世界のどこに持って行ってもその特徴は失われないぐらいはっきりしている。そういう整理整頓がきちっとある社会の中で暮らしてこられた人達の、生活感覚みたいなものが作品にも反映されている。そういう意味で作品が清潔ですっきりしてるなという印象は持ちました。

アサダワタル

アール・ブリュットという存在が現在、海外の展覧会を始め国内でも様々な美術館で巡回展が開催されています。今、滋賀県でも新たな取り組みとして新生美術館のあり方が模索されているわけなんですけれども、美術館という、まさに青柳長官が関わってらっしゃる領域の中で、アール・ブリュットというのは今後どういう風な存在というか、美術館という仕組みの中にそれらが位置づけられることによって、既存の美術とどういうコラボレーションが行われてゆくのか。もちろん一足飛びに何かが変わるものじゃないと思うんですが、どういう風に徐々に変化をしていくのか、いかがお考えでしょうか。

青柳正規

一つは日本の今の現代美術というのは大変盛んで、どこにいっても恥ずかしくないぐらいのクリエイティビティもあるし、バラエティもあるし、力もあるし、そういう状況なんですけれども、実は世界的に見ると、美術市場が世界全体で20兆円ぐらいだといいますが、中国が3年ぐらい前には中国の国内市場だけで2兆円を超えたっていうんです。ところが日本の美術市場はどう大きめに見ても3000億円ぐらいにしかならないんですね。だから経済規模に比べると美術市場が小さいと。そういう中で、若い人たちが才能がある人でも、注目されて良い値段で自分の作品を買ってもらえるっていうのがなかなか難しい社会なんです。だから村上隆なんかは日本を捨てて海外の大きな市場の中に自らを位置づけて行ったという、そういう状況です。

経済的な美術マーケットの中にまだ属していないアール・ブリュットという領域で、その作家の人達は売れる売れないとか値段を気にせずに制作をどんどんできるので、意外に普通の健常者がつくる現代美術に比較して非常に活力がある。経済性に左右されていないからね。いいものも生まれて来ていると。これをそのまま素直に伸びるような環境をぜひ整備していきたいと思います。

アサダワタル

今のお話を伺ってますと、まさにいわゆる市場というものを原則にしないような美術のあり方というものが、結果的にアール・ブリュットが盛り上がって行く中で、いわゆる金銭だけじゃない形で作家が認められる環境や政策があるのかと希望を感じながら、例えば地域社会との関わり方などにも繋がってくるのかと思いまして。例えば先ほどシンポジウムの中でクリエイティブ・シティのお話もされていましたが、色んな美術というのが、市場だけじゃないようなところでコミュニティデザインみたいな観点で色んな所で注目されていると思うんですね。アール・ブリュットがそういった地域との関わりの中で新たな再評価がされていくような状況は、今後可能性としてはあるんでしょうか。

青柳正規

僕はあると思いますけれども、そのためにはいくつかポイントがあって克服していかなければいけないところがある。

一番は、滋賀県なんかは以前からアール・ブリュットに注目してるので、施設や色々な所にアール・ブリュットの作家を見つけ出すことが出来る、そういった専門家が沢山いらっしゃるんですね。色んな所をくまなく歩いてらっしゃるから才能を引き出す事が出来るわけです。そういうことを専門にしている地域はまだまだ日本には少ない。ですからそこをなるべく早く色んな専門家が色んな地域に存在して、そしてその中で色々な才能のある人を沢山見つけてくれて、そして才能のある人同士がこういう展覧会なんかで自分の良さを競い合うというとおかしいけれども、ちゃんと提示出来るような、そういう場が出来れば良いと思うんです。すなわち仲介にあたってくださる、専門家がなるべく増えてほしいということが一つ。

もう一つはマーケットとも関係があるんですが、あれだけすばらしいものが並んでいるので、自分の部屋に飾りたいという人がいると思うんですよね。そういう需要にどう応えて行くか、著作権とか値段であるとか、お金のやり取りとか、非常に面倒くさいことが出てくるので、できたら財団みたいなものが作られて、そういうところでうまくハンドリングが出来るようになって、欲しい方の所にも届くようにする。そうすると一挙にアール・ブリュットが日本社会に広がって行くと思います。

アサダワタル

最後の質問です。改めて、村木厚子厚生労働省事務次官との対話も沢山ありましたが、美術の中では、例えばアール・ブリュットが生まれる現場にまで発掘しにいく専門家というのはすぐに生まれ得ないということもあるかもしれないし、一方で福祉だけではできない専門性も沢山あると。そんな中で全国調査とか色んな活動が始まってるんですが、今改めて文化行政、つまり文化芸術というものを制度として支えて行くことと、一方福祉という制度を作って行くというところが今後どのようなコラボレーションして行くことが可能なのか。また大きな意味でのコミュニティというものに対する一つの対処法であったり、新たな社会をデザインしていく上で、文化と福祉の接点に今アール・ブリュットがあると思うのですが、いわゆる福祉行政と文化行政のより具体的なコラボレーションというものを少しずつステップを踏んでゆく、その展望をお聞かせ願いたいと思います。

青柳正規

やっぱりその展望のポイントはコミュニティだと思うんですね。厚生労働省も守備範囲を広げて行こう、それからさっき村木次官がおっしゃっていたように、弱い所を助けようというだけではなくて、これからは良い所も伸ばそうというのをやっていきたい。われわれも文化という領域を出来るだけ広げて行って、ポップアートとか最先端の部分までも取り込みたい。そうすると中核になるそれぞれの都市とか地域がそういうものに関心をもって福祉と美術、福祉と音楽とかそういうコラボレーションの中で、もっとコミュニティに対して有機的な手助けが出来るような社会を作って行ければなぁと思う。そういう意味でこれからどんどん厚生労働省とも協力関係を密にして行きたいと思いますね。

アサダワタル

本日はお忙しい中ありがとうございました。青柳正規文化庁長官へのラジオインタビューでした。どうもありがとうございました。

青柳正規

ありがとうございました。

※1 クリエイティブ・シティ

クリエイティブ・シティ(創造都市)は、芸術文化などに代表される創造性が、脱工業化社会において新しい価値を都市にもたらし、活力につながることを指す概念。英国のチャールズ・ランドリーが提唱したことで知られる。

パーソナリティ アサダワタル

1979年大阪生まれ。日常編集家。公私の狭間、異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、音楽、文章、プロジェクトを通じて創作・提案。2002 年、バンド 越後屋のドラマーとして、くるり主宰レーベル「NMR」より2枚のCDをリリース。その後、音楽を主体に各地でソロライブ、プロジェクト、ワークショップを展開しつつ、2013年、ドラムを担当するSjQ++にて、アルスエレクトロニカ準グランプリ受賞。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社、編著)『編集進化論 editするのは誰か』(フィルムアート社、共著)等。『ソトコト』や『マガジン航』等で連載。神戸女学院非常勤講師。

アサダワタル

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