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小室等・北岡賢剛『音楽と福祉現場の出会いとこれから』(1/2)

  • 小室 等フォークシンガー
  • 北岡 賢剛滋賀県社会福祉事業団 理事長
小室等・北岡賢剛『音楽と福祉現場の出会いとこれから』(1/2)

自身のソロ・コンサートの他、様々なジャンルのミュージシャンとのコラボレーションや、「六文銭’09」や、さがゆきとの「ロニセラ」、こむろゆいとの「Lagniappe」などユニットでの活動を行う小室さん。福祉施設などのおける音楽活動にも務め、1980年代後半以降、長年にわたり滋賀県での活動を継続されています。昨年2012年は、栗東文化会館さきらにて開催された糸賀一雄記念賞第十一回音楽祭にて総合プロデュースも務められました。番組では、滋賀県社会福祉事業団理事長 北岡賢剛さんとの出会いのエピソードを皮切りに活動を振り返りながら、糸賀一雄生誕100年県民コンサートへの意気込みも語っていただきます。

信楽青年寮での運命の出会い

アサダワタル

お二人は結構長いお付き合いとお聞きしているんですが、まずお二人の出会いのエピソードから聞いてみたいと思います。小室さんはいつ北岡さんとお会いされたんですか?

小室等

たぶん四日市だと思うんだけれど。

北岡賢剛

あれが最初ですかね。子どもの本専門店ですね。

小室等

メリーゴーランドという本屋さんがあって。そこに北岡さんが以前から出入りしてたらしいんですよ。

北岡賢剛

僕は大学のときから子どもの本の活動をやっていて、そういうときにたまたまメリーゴーランドの店長の増田喜昭さんと知り合ったんです。それから滋賀県で働くようになったので、何かイベントがあると行ったり来たりよくしてたんですね。そこで小室さんと田島征三さんが来られるということで、これは行こうと。

アサダワタル

その日、ゲストでご出演されている小室さんに、北岡さんはいちお客さんとして観に行ったと?

小室等

僕じゃないんですよ。北岡さんは、音楽のほうは、吉田拓郎さんのファンなんだよ(笑)。僕のことなんかどうでもいいわけ(笑)。ただ、その絵本作家の田島征三という人に、接近したかったわけですよ。それはなぜならば、北岡さんの代弁をしますけど、北岡さんはその時に従事していた信楽青年寮という知的障害を持つ方の入所施設で、そこでの色んな文化活動、焼き物をやっていたり、絵を描く人たちがいたりする、そういう部分でもサポートをしていこうっていうことがあって、北岡さんはそういう絵本の世界にもコミュニケーションをしていたので、そのあたりを結びつけようという魂胆があったんですね(笑)。

北岡賢剛

その頃は伊藤喜彦さんの『土鈴』を持って僕は行ったんですよね。

アサダワタル

伊藤喜彦さんというのは、信楽青年寮でずっと陶芸をされていた方。

北岡賢剛

そう。知的障害をもつ方ですけれども、その方がつくる『土鈴』が、僕たちから見るととても面白いというか、ユニークな作品だと思っていて。それはなかなか福祉の現場だけで議論をしていては、本当によいのかどうかよく分からないので、一回田島さんにぶつけてみたらどうか、と。

小室等

それはやっぱり北岡さんのすごいところ。だって、田島征三さんが一発で、「なにこれ!」って反応したんだから。「凄いね、これ君」っていう感じで。

北岡賢剛

そうですね、今考えると嬉しかったですね。

小室等

それでその次に、征三さんに「遊びにおいでになりませんか?青年寮に。」と言われて、「伊藤喜彦さんに会えるんだったら」って二つ返事で答えてね。それで彼が出かけるのに僕もついていって。そこから色んな世界を…。

北岡賢剛

そう。色々と、楽しい思い出が。

アサダワタル

小室さんは信楽青年寮や滋賀県にこういった形できっかけが出来たと思うんですけど、その後、音楽活動としても滋賀県の福祉施設とかに関わるということはあったんですか?

小室等

いや、そんなに何か意識的に関わってはいないと思いますけど、要するに信楽青年寮に遊びに行くのが面白かったんですよ。で、青年寮の施設の中でライブをやらせてもらったりとか。

アサダワタル

ライブもされたんですか。

小室等

小さな喫茶店でね。僕は歌ってるでしょ。すると聴いてる人がね、「あの、小室さん」って手を挙げると「何ですか?」って。「あの、すみません…、加山雄三お願いします」っていうからさ(笑)。

アサダワタル

あはは。

小室等

「あの、ちょっと待って。俺、自分の歌だけしか歌ってない、歌えないし…」「あ、あ、さよか、ほなええわ」とかって。で、また数曲歌ってると「あ、あの、小室さん」って「何ですか?」って言うと、「あの…、加山雄三お願いします」っていうから「いや、だから」っつって(笑)。

アサダワタル

相当面白いコミュニケ―ションですね(笑)。

小室等

で、何回目かにね。また「加山雄三」っていうから、しょうがないからね、ワンコーラスやったんだよ。「ふたりを〜夕闇が〜」ってね。そしたら「あぁ、おおきに…、やっぱ加山雄三の方が上手いわ」って(笑)。面白かったね。

映画『しがらきから吹いてくる風』

アサダワタル

お二人は信楽青年寮の出会い以降、ずっと数十年色々な活動をされてきたと思うんですけれども、その後何か具体的に、例えば映画制作であるとか、そういった活動もご一緒されたとお聞きしているんですけれども。

北岡賢剛

『しがらきから吹いてくる風』っていうドキュメンタリー映画を、1990年につくったんですね。つくったといってもそれは映画会社がつくるわけですが、僕らはその映画を撮る現場を提供したっていうか。そういうことで小室さんと出会ってから数年後にそういう活動があったので、映画の音楽を小室さんにぜひお願いしようということになり、主題歌といい、その映画の色んなシーンに入る音楽は、ぜんぶ小室さんにつくってもらったというようなことですかね。

アサダワタル

小室さんは信楽青年寮に通いつめたなかから、色んなインスピレーションがきっと涌き起こってつくられたと思うんですけれども、歌詞であるとかメロディであるとか、どういうメッセージをこめられてつくったんですか?

小室等

映画では歌も出てきましたかね。

北岡賢剛

『ここから風が』が出てますね。一番最後のところに。

小室等

それは田島征三さんが施設を利用するみなさんを見ていてユニークな人たちがいっぱいいるんで、そこからインスピレーションを受けて、詩を書いて、僕が曲をつけて。

北岡賢剛

基本は伊藤喜彦さんの口ぐせを繋いだっていうかね、田島征三さんが。

アサダワタル

すごく面白いコンセプトですね。

小室等

「全国的に精神の心を、ぐっとおさえて」とかっていう口癖を、征三さんがピックアップさせてもらって、それに征三さんの言葉を足したんですね。だから、言ってみれば殆ど伊藤喜彦さんがつくった詩だって言ってもいいかもしれない。

北岡賢剛

僕はあと憶えているのは、映画音楽をスタジオで録音するときに、伊藤喜彦さんの『土鈴』を使って頂いたんですよね。そういうのを使いながら音楽をつくって頂いたっていう思い出がありますね。

障害がある人との出会いから見えてきた社会

アサダワタル

『しがらきから吹いてくる風』っていう映画以降は、また滋賀県を中心に福祉の現場で表現活動、文化活動みたいなことをお二人でご一緒することはあったんですか?

北岡賢剛

糸賀一雄先生の音楽祭を一緒にやるというところまでは、具体的には何か一緒には…

小室等

もちろんあるんだけどね。やっぱり田島征三さんと一緒に全国をまわって。征三さんが絵を描いて、ライブペインティングして、僕がその傍で歌うという企画を北岡さんがプロデュースしてくれて。何カ所ぐらい行きましたかね。

北岡賢剛

全国100カ所ぐらい行きましたね。

小室等

その時にね、北岡さんが一緒についてきてくれながら、時々消えるんですよ。で、どこに消えるかっていうと、その地元の施設、北岡さんがちょっと見せてもらいたいっていう所に行って帰ってくるんですね。その時の土産話が、まぁこんな言い方したら何ですけど、「この施設はよかったわ!」というところもあれば「だめでしたね」とかっていうような。

北岡賢剛

ははは。

小室等

その時に、なぜ、どこがよかったのか、どこがだめだったのか、っていう風に僕は聞くんです。そこからね、社会が見えてくるんですよ。青年寮に行ってそこで障害を持った人と実際に付き合わせてもらうことも、僕にとっては今まで見たことのない世界。社会が見えて、そしてこの社会に実は以前からずっとあるものなのに、なぜこれまで僕には見えてこなかったんだろう、とかね。そういう疑問が僕のなかにフィードバックしてきて。で、結果、僕をものすごく豊かにしてくれてるって感じなんですよね。

アサダワタル

先ほども少し言葉が出ましたけれども、糸賀一雄記念賞音楽祭、そのことについて、次回以降、また引き続きお話を頂けたらと思います。今日はどうもありがとうございました。

小室等

いえ、こちらこそ。

北岡賢剛

どうもありがとうございました。

※1 メリーゴーランド

三重県四日市市にある老舗の子どもの本専門店。本屋・雑貨屋・喫茶店のほか、遊びのワークショップや多目的ホールまでも完備する多彩なお店として全国から注目されている。

※2 田島征三

1940年生まれ。絵本作家・美術家。高知県で幼少期を過ごし、多摩美術大学図案科に進学。『ちからたろう』(今江祥智 文・ポプラ社)、『もりへさがしに』(村田清司 え・偕成社)など代表作多数。美術家として様々な国際展にも出展し、信楽青年寮にて造形活動も行う。エッセイ集『ふしぎのアーティストたち』(労働旬報社)にて、アウトサイダーアート、アール・ブリュットの世界を紹介した。

※3 信楽青年寮

滋賀県甲賀市にある知的障害者授産・更正施設。社会福祉法人しがらき会が運営。古くから先駆的な地域福祉の実践で知られる。

※4 伊藤喜彦

信楽青年寮に入居し、2005年に逝去するまで創作活動に従事。口癖は「全国的に心おさえて」「情けない」。

※5 『しがらきから吹いてくる風』

1990年に、西山正啓が監督、シグロが制作した映画。信楽青年寮にて伊藤喜彦がつくる陶芸作品と田島征三との出会いが描かれている。

※6 『ここから風が』

『しがらきから吹いてくる風』の主題歌になった小室等作曲、田島征三作詞の楽曲。2009年にリリースされたラニヤップ(小室等とこむろゆいのユニット)のアルバム『ここ』(coco-luck.music)にも収録されている。

小室等フォークシンガー

1943年東京生まれ。1968年グループ「六文銭」を結成。1971年第2回世界歌謡祭にて「出発の歌」(上條恒彦と六文銭)でグランプリを獲得。1975年泉谷しげる、井上陽水、吉田拓郎と「フォーライフレコード」を設立。
現在は、自身のコンサートを中心に活動するなか、谷川賢作(pf.)とのセッション、さがゆき(vo.)との「ロニセラ」、娘であるこむろゆい(vo.)との「Lagniappe」、「六文銭 '09」(小室等、及川恒平、四角佳子、こむろゆい)などのユニットでライブ活動を行っている。他のジャンルのミュージシャンとのコラボレーションやイベントプロデュースも多数あり、テレビドラマ(NHK金曜時代劇「蝉しぐれ」、TBS「高原へいらっしゃい」「遠い国から来た男」他)、映画(ドキュメンタリー「ナージャの村」他)、舞台(ミュージカル「スパイ物語」、他)などに音楽を提供するなど幅広い活動を行っている。

小室等
北岡賢剛滋賀県社会福祉事業団 理事長

1958年福岡県生まれ。筑波大大学院障害児教育研究科終了後、1985年から滋賀県甲賀市の知的障害者施設「信楽青年寮」のスタッフ〜副寮長を経て、社会福祉法人「オープンスペースれがーと」理事長。そして2001年に滋賀県社会福祉事業団企画事業部部長、2007年に理事長に就任。障害のある方が地域で当たり前に暮らせるシステムづくりを進め、また「バリアフリー映画祭」や近江八幡市「ボーダレス・アートミュージアムNO-MA」の企画運営など、福祉と様々な芸術文化を繋ぐ活動も精力的に展開している。

北岡賢剛
パーソナリティ アサダワタル

1979年大阪生まれ。日常編集家。公私の狭間、異分野間を漂泊しながら、既存の価値観を再編集する表現を、音楽、文章、プロジェクトを通じて創作・提案。2002 年、バンド 越後屋のドラマーとして、くるり主宰レーベル「NMR」より2枚のCDをリリース。その後、音楽を主体に各地でソロライブ、プロジェクト、ワークショップを展開しつつ、2013年、ドラムを担当するSjQ++にて、アルスエレクトロニカ準グランプリ受賞。著書に『住み開き 家から始めるコミュニティ』(筑摩書房)、『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社、編著)『編集進化論 editするのは誰か』(フィルムアート社、共著)等。『ソトコト』や『マガジン航』等で連載。神戸女学院非常勤講師。

アサダワタル

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